(うつり病に導かれ[その3]の続き)
「(ユキヨ……)」
その女は、12歳歳上だった。
「お前、何考えてるんだ!」
父親は激怒した。
「あなた、騙されてるのよ!」
母親は泣いた。
「ユキヨはそんな人ではないんだ!」
と、ドクトル・ギャランドゥは、両親との縁を切り、そして、大学病院も去り、先輩に紹介してもらった病院の勤務医となった。ユキヨとの生活費を稼ぐ為である。大学での研究員の生活は決して楽ではないのだ。
しかし……
「(ユキヨ、どうして去ったのだ?)」
ユキヨとの同棲生活は長くは続かなかった。ある日、ユキヨは何も云わず、ただ『サヨナラ!愛してたわ』というメモだけを残して部屋を出て行った。
「(僕と親との関係を壊したことに悩んでいた)」
だからかもしれなかったし、
「(僕に研究を断念させてしまったことも悔やんでいた)」
だが、本当の理由は分らない。
「(ユキヨ、愛していたのに…)」
その後、幾つかの病院の勤務医を経て、今、ここに『ギャランドゥ内科クリニック』を開院している。
『お酒と肝疾患』
診察室の机の上に、1ヶ月後の医学講演会のチラシがあり、ドクトル・ギャランドゥの講演テーマも紹介されている。
「(『武川和人』とはいかなかったが、臨床医をしながら、肝疾患の研究は続けたんだよ、ユキヨ)」
講演会のチラシに眼を遣りながら感傷に浸っていた時であった。
(続く)
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