「(ボクは、知っている。自分がこの本にキスをし、頬ずりをし、匂いを嗅いだことを)」
と思うビエール・トンミー氏の視線は、ベッドサイドのテーブルに置いた本『アーミッシュの老いと終焉』に落ちていた。
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「ふふ。そうじゃ、今は、一応のお」
「え?何が、『今は』、なんだ?何が、『一応』、なんだ?」
「『意志』の人であるアンタも、『アレ』を止めるんは、タバコや酒ん時より、もっと大変じゃったんじゃろう?」
「また訳の分らんこと云いよるのお。何が、『アレ』や」
「アンタがタバコや酒に溺れたんは、アンタの『ラムシュプリンガ』じゃったんじゃろ?」
「云うたように、ワテは、『アーミッシュ』やあらへんさかい、『ラムシュプリンガ』はしとらんが、まあ、タバコと酒に溺れとった時期を『ラムシュプリンガ』じゃった、とアンタ、云いたいんやな。ま、勝手にすりゃあええ」
「若い頃のアンタは、自身の『原宿の凶器』を、タバコや酒のようにはコントロールできんで、『アグネスラム』みたいな女の子たちに、シュプシュプいうて、クラクラしとったんじゃろ。まさに『ラムシュプリンガ』じゃ。その『原宿の凶器』をなんとか宥めることができたんは、奥様のお陰じゃろう」
「は?家内のお陰?」
「『プロレス』好きの奥様との『戦い』で、さすがの『原宿の凶器』も翻弄され、大人しゅうなったんじゃろ。『プロの旅人』の『バスローブの男』にその辺の事情はよう書いてあったけえ」
「アンタなあ、あんな妄想Blogの書いとること真に受けんやないで。まあ、確かに、結婚してからは、女房一筋なんは、そん通りやがな。今はもう、タバコも酒もしとらへんし、『アーミッシュ』のよに清廉潔白な身なんや」
「『今は』じゃね」
「ああ、せやで。もっと正確に云うたら、今は、『アーミッシュ』以上に清廉潔白な身なんや」
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「(ああ、ボクは、今、家内に対しては、清廉潔白だ…)」
と云いながらも、ビエール・トンミー氏の視線は、再び、ベッドサイドのテーブルに置いた本『アーミッシュの老いと終焉』に落ちていた。
(続く)
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