「チッ!」
リビングルームのソファに腰を沈めたビエール・トンミー氏が、顔を歪めながら、舌打ちした。
「あ~ら、アータ、どうしたの?」
台所で洗い物を片付けていたマダム・トンミーが、夫に声を掛けた。
「いや、iPhoneの操作をちょっと間違っただけだよ」
「あ~ら、アータでもそんなミスをするのね」
「まあね。でも、iPhoneは、シェイクするか、3本指でタップすれば、操作の取り消しができるから問題ないんだ」
「へええ、そうなの。ア~タって、ホント、いろんなこと、よく知ってるのね。『ハーバード』の学生よりアタマいいわ。まあ、ア~タって、『ハンカチ大学』の商学部出てるんだから、元々、『ハーバード』に負けるものじゃないけど」
と、マダム・トンミーは、手を休めていた洗い物の片付けを再開した。
「(そうだ。問題は、その『ハーバード』だったんだ。あの野郎!)」
そう口中で呟きながら、ビエール・トンミー氏は、憎々しげな表情を隠さず、掌に持つiPhone14Pro の画面に目を遣った。
画面には、友人のエヴァンジェリスト氏の戯けた顔の下に、今交わしたばかりのiMessageの文面があった。
「(アイツにあんな質問をすると、こうなることは判っていたのに)」
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「問題や。『チョコとガムの値段は合わせて110円です。チョコはガムより100円高い。では、ガムはいくらですか』。読んだら即答してェや」
「ガムは何個あるん?」
「1個や」
「合せて110円とした時のガムと、『ガムはいくらですか』いう質問の『ガム』は同じ『ガム』なん?」
「同じや」
「チョコは何個あるん?」
「1個や」
「ガムは、一個、が回答じゃ」
「はあ?値段を聞いとるんやで」
「『いくら?』いう質問じゃったけえ、個数かあ思うたんよ」
「即答、即答!」
「110円した時に買った店と値段を比較した時の店は同じなん?」
「同じや」
「この計算、難し過ぎて分らん」
「アンタ10円と思ったやろ」
「いや、分らんかった」
「答えは5円や。ガムが10円だとしたらチョコは110円となり、合計は120円になってしまう。正解は5円。
ガム 5円
チョコ 105円
合計 110円
と、こういうことじゃ」
「ああ、ワシ、個数聞いたじゃろ。センスええと思わん?」
「思わん。変人なだけや」
「でも、これ、いつの時代の問題なん?」
「さっき本で読んだんや。ハーバードやMITの学生でも、半分くらいは10円と答えるんやで」
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(続く)
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