「は?」
朝の起きがけの『オシッコ』から自分の部屋に戻ったビエール・トンミー氏は、iPhone 14 Proの画面に、友人のエヴァンジェリスト氏の戯けた顔を見た。『通知』だ。
「(まだ、メッセージを送ってきているのか。それにしてもしつこい奴だ)」
と、思ったが、iMessageを開いた。
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「ところでのお、質問のチョコレートとガムを売っとった店は、免税事業者なんかいね?」
「知らんがな」
「いや、ワシ、『消費税のことが考慮されとらんのがおかしい』と云うてしもうたが、免税業者じゃったら、消費税をとっとらんかもしれんけえ」
「ただの算数の問題だ。消費税とか免税とか関係ないだろう」
「いや、教育の世界が、一般世間と隔絶されたところにあってはいかんだろう」
「ああ、じゃあ、免税事業者だった、っていうことにしておけばいいだろう」
「ということは、『課税期間の基準期間』に於ける『課税売上高』が、1000万円以下だった、ってことなんじゃの?」
「はああ?なんじゃ、『課税期間のなんちゃら』とか『課税売上高』ちゅうのは?」
「『課税期間の基準期間』の『課税期間』とは、消費税の計算期間のことで、通常、個人であれば1月1日~12月31日で、法人じゃったら、事業年度なんじゃと。 『基準期間』は、納税義務の判定の基準となる期間のことで、原則として個人事業者は前々年、法人は前々事業年度なんじゃと」
「はあん?なんかややこしいこと、云いよんなあ。よう分らんが、どうでもエエわ」
「『課税売上高』は、消費税の課税対象となる取引の売上高をのことで、殆どの取引に係る売上高が『課税売上高』なんじゃが、土地の売却収入、住宅家賃、社会保険診療報酬なんかは、消費税の非課税取引に係る収入等は除くんじゃと」
「はあん?まあ、どうでもエエが、要するに、チョコとガムを売っとった店が、免税事業者やったら、チョコとガムを買うたもんに消費税を払わさんでもエエちゅうことなんやな?」
「そこはそうじゃないんよ。チョコとガムを買うた人は、消費税を払う必要は別にないんよ」
「あんな、アンタ、何云うてんねんな。ワテら健全なる消費者は、ちゃんと消費税を払わなあかんで」
「アンタが健全な人間かどうかは大いに議論の余地のあるところじゃが、アンタが健全であろうとなかろうと、消費者には、消費税の納税義務はないんでえ」
「せやけど、店でなんか買う時、ちゃんと値札に消費税が書いてあるで。で、ワテはちゃんと消費税を払うとるんや」
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と、友人に返信したところで、ビエール・トンミー氏は、ベッドサイドのテーブルに置いた本『アーミッシュの老いと終焉』を手に取り、眼を閉じ、そーっと鼻に近付け、嗅いだ。
「あはあ…」
と、吐息を漏らした。
『アーミッシュの老いと終焉』は、前日、駅近くの書店で購入したものであった。
何日か前から買うつもりでいたが、レジにあの娘がいる時を狙っていたのだ。ポニーテールの二十歳そこそこの娘だ。
(続く)
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