2022年4月14日木曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その198]

 


「『地動説』というか、地球ではなく、太陽が中心になっているということは、古代ギリシャの、だから、紀元前の人である数学者で天文学者の『アリスタルコス』の方が、『コペルニクス』よりも先に唱えたんだそうだ」


と、『少年』の父親は、『少年』が聞いたこともない名前を、いや、多くの人が聞いたこともない古代の人の名前を出してきた。牛田方面に向う『青バス』(広電バス)の中であった。


「『コペルニクス』自身、自分が書いたものの中で、『アリスタルコス』について言及しているらしい。ただ、『天動説』が当り前だった時代に、『地動説』を唱えた『コペルニクス』は偉大であったことは確かだ」


と、『少年』の父親は、『アリスタルコス』から、NHKで放送されていた子ども向けの番組『ものしり博士』の『ケペル先生』の『ケペル』の名前の由来の一つではないかと思われる天文学者『コペルニクス』へと話を戻した。


「『コペルニクス』も『異端審問』にかけられたの?」

「いや、かけられていない」

「え?どうして?同じように『地動説』を唱えたのに」

「うーん、そうだなあ、まあ、発表の仕方や、その考えが知られるタイミングもあったとは思う。『コペルニクス』の『地動説』が世に知られたのは、彼が死んだ後だともされているからな。でも、時代背景が違ったんだろう。『ガリレオ』の時代は、『宗教改革』の真っ只中で、カトリック教会は、自分たちの教えに反する考えに敏感だっただろうと思う」

「『宗教改革』?」

「ああ、キリスト教の改革だ。『カトリック』と『プロテスタント』って、聞いたことないか?」

「ああ、なんか聞いたことがあるような気がする」

「キリスト教は、元々は一つだったんだ。何しろ、キリストの教えから始った宗教だからな。その元々のキリスト教が、ローマ帝国の東西分裂によって、『東方教会』と『西方教会』とに別れるんだ。その『東方教会』から、今のギリシャ正教とかロシア正教といった『正教会』という教派になるんだ」


と、『少年』の父親は、取り出したままにしていた手帳に、自身のモンブランの万年筆で、『正教会と書いた。


「ああ、よくは知らないけど、『東本願寺』と『西本願寺』みたいな感じだね」

「いやあ、それはどうかなあ。まあ、『西方教会』の方は、更に、『宗教改革』によって、『カトリック』と『プロテスタント』に別れるんだ。宇部の家の近くに、『カトリック宇部教会』という教会があったのを覚えていないか?」

「ああ…あったような気も」

「線路の反対側には、『ルーテル宇部教会』というものあったんだが、それは覚えていないかなあ?」

「うーん…知らない」

「『宗教改革』は、そうだなあ、簡単に説明すると、『西方教会』のキリスト教が、『ローマ・カトリック』と呼ばれるようになったんだが、段々、儀式化したり形骸化したことに反対したもので、ドイツの神学者だった『マルティン・ルター』から始ったものなんだ。『ルーテル宇部教会』の『ルーテル』って、『ルター』をドイツ語読みしたものだ。その『宗教改革』の結果、『カトリック』から離れた教会の『プロテスタント』ができたんだ。『プロテスタント』って、『抗議する者』という意味だ。『カトリック』は、普遍的とか全般的、というギリシア語からきているそうだが」




「ああ、そんなキリスト教が分裂しそうで揉めている時に、『ガリレオ』は教義に反する『地動説』を唱えたから、問題になったんだね」

「そうだ。でもな、『地動説』は、それまでの概念を完全に覆す程の新しい考えだから、それを『ガリレオ』より先に唱えた『コペルニクス』は大したものだと思うぞ。何しろ、『コペルニクス的転回』という言葉があるくらいだからな」


と、『少年」の父親が、話を『コペルニクス』に戻した時、


「着いたよ」


と、『少年』の妹が、バスの中でまだ話し込んでいた父親と兄に声をかけた。



(続く)




0 件のコメント:

コメントを投稿