「え?『コペルニクス的転回』?」
と、『少年』は、父親が云った言葉を鸚鵡返しした。牛田方面に向う『青バス』(広電バス)の中であった。しかし…
「『コペルニクス』が、でんぐり返しをしたの?」
と、『少年』は、父親同様、聡明ながらも、まだ小学校を卒業したばかりの子どもらしい発想をしてみせた。『少年』は、父親に、NHKで放送されていた子ども向けの番組『ものしり博士』の『ケペル先生』の『ケペル』の名前の由来について、訊き、少年』の父親は、昔の2人の天文学者の名前、『ケプラー』と『コペルニクス』とを掛け合わせたのではなかったか、と『少年』に教えていた。
「まあ、でんぐり返しをしたようなものだな。上のものを下に、下のものを上にする、そう、価値観を全くひっくり返すことを『コペルニクス的転回』というんだからな」
「ああ、そういうことなんだね。でも、みんなが云っていることと違うことを考えたり、云ったりするのって、なかなかできないよね」
「そうだ。人間って、固定観念に縛られているからな」
「そんな『転回』ができた『コペルニクス』って、やっぱり凄い人なんだね。『物知り博士』は、2人ともとっても凄い『ケプラー』と『コペルニクス』とを合わせたくらい凄いから、『ケペル先生』って名前になったんだね」
「はっきりは覚えていないが、そうだったんじゃないかとは思う。でもな、ひょっとしたら、なんだが、『スカラベ』からきているのかもしれない」
と、『少年』の父親がまた、『少年』が聞きなれない言葉を発した時、
「降りるわよ」
と、『少年』の母親が、バスの中でまだ話し込んでいる夫と息子に声をかけた。
(続く)
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