2022年4月21日木曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その205]

 


「『浦島太郎』がおとぎ話とは、限らんぞ」


と、『少年』の父親は、『少年』が思いもしなかったことを云い出した。『牛田新町一丁目』のバス停を背にし、家族と共に、自宅へと向っているところであった。


「ええー?亀に乗って竜宮城に行った人がいるの?」


八丁堀から牛田まで、随分、時間がかかったような気がする、と『少年』は疑問に思ったのであった。八丁堀から牛田まではバスで10分から15分くらいしかかからないのに、そんな時間ではとてもし切れない程のボリュームの話を父親から聞いたことを訝しく思い、『少年』の父親は、時間の進み方が遅かったのかもしれない、という、『少年』が思いもしなかったことを云い出し、更には、『浦島太郎』まで持ち出してきたのだ。


「いや、問題は、そこじゃない」

「じゃあ、あっという間にお爺さんになった人がいるの?」

「そうではないが、そのことに関係はあるんだ。『アインシュタイン』って、知っているか?」

「うん、偉い物理学者でしょ。ベロを出してるお爺さんな写真を見たことがあるよ。え!?まさか、『アインシュタイン』が『浦島太郎』だったんじゃないでしょ?」





「そうじゃないな。『アインシュタイン』は、ドイツ人で、『浦島太郎』は日本人だから、ということではないぞ、ふふ」

「でも、『小泉八雲』は日本人だけど、『ラフカディオ・ハーン』っていう外国人だったんでしょ?イギリスの人だったかなあ?」

「おお、そうきたか。いいぞ。『小泉八雲』を知っていたか」

「うん、『耳なし芳一』なんかの話を読んだことがある。怖い話だった」

「でもなあ、『ラフカディオ・ハーン』が何人(なにじん)かは、うーむ、難しいところだな。生まれは、ギリシャだったそうだが、お父さんはアイルランドの人で、お母さんはギリシャの人で、でも、彼はイギリス人だったんだ」

「ええ?アイルランド人でも、ギリシャ人でもなく、イギリス人だったの?ああ、でもそうだね。国とか国名、そしてどこの国の人かということを云うのは、簡単じゃあないんだよね」



(参照:【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その61]



「そうだ。当時、アイルランドはまだ独立していなくて、イギリスだったんだ。今でも、北アイルランドは、イギリスだ。それにな、『ラフカディオ・ハーン』が生れたのは、ギリシャの『レフカダ』という島なんだが、これも当時は、イギリスの保護領、つまり、イギリスの、まあ、植民地だったんだ。『ラフカディオ・ハーン』は、正式には、『パトリック・ラフカディオ・ハーン』という名前で、ミドル・ネームの『ラフカディオ』は、生れた『レフカダ』から付けられた名前だそうだ」

「『ラフカディオ』…『レフカダ』…ん、似たような言葉だね」

「というようなことから、『ラフカディオ・ハーン』の国籍はイギリスで、その意味で、『ラフカディオ・ハーン』は、イギリス人だったんだ」

「でも、何人(なにじん)って、国籍のことを云うだけとは限らないものね」

「そうだ。『アインシュタイン』は、国籍はドイツだからドイツ人だけど、ユダヤ人なんだ」

「だけど、日本人ではなかったんでしょ?なのに、『アインシュタイン』は、『浦島太郎』とどんな関係があるの?」


と、『少年』は、またもや派生に派生を重ねていきかけていた父親との会話を、少し巻き戻した。



(続く)




0 件のコメント:

コメントを投稿