「そうかあ、うーむ、父さんの話が長いと思っていたのか?」
と、『少年』の父親は、『少年』に覗き込まれた自らの顔を少しく歪めた。『牛田新町一丁目』のバス停を背にし、家族と共に、自宅へと向っているところであった。
「父さんの話が、ただ取り留めもなく、だらだらと続く、『デラシネ』なもののように思っていたのかあ」
「『デラシネ』?」
「ああ、『デラシネ』ってな…」
「そうじゃないんだ。父さんは、『福屋』の大食堂でも色んなことを教えてくれたけど、八丁堀からバスに乗ってからは、もっともっと色んなことを、沢山のことを教えてくれたと思う」
「ビエールは、その話にちゃんと付いてこれたと思う。それは凄いことだと思う」
「でもね、疑問があるんだ」
「え?」
「八丁堀から牛田って、バスで10分から15分くらいなんでしょ?」
「そうだ。大体、そのくらいだな」
「その10分から15分くらいの間に、父さんは、あんなに沢山のことをボクに話してくれたの?」
「そんなに深く話したわけではないが、色々と話はしたな」
「八丁堀から牛田まで、随分、時間がかかったような気がするんだ。ううん、時間はあまり経っていないのに、どうして、あんなに沢山ことを父さんから教えてもらえたんだろう?」
「ああ、そういうことかあ。時間の進み方が遅かったのかもしれんな」
「ええ!?時間が早く進んだり、遅く進んだりするの?そんなことってあるの?」
「あるんじゃないかなあ。ビエールはまだ、小学校を卒業したばかりだから分らないだろうが、小学校の時代って、とっても長かったように感じるものなんだ。同じ6年でも大人になってからの6年なんて、あっという間に過ぎ去っていくんだよ」
「ふううん。でも、それって、そう感じるだけでしょ」
「さあ、どうだろう?『浦島太郎』は知っているだろ?」
「勿論、『♫助けた亀に乗せられて竜宮城に行ってみれば』で、でも、玉手箱を開けて、お爺さんになったんでしょ」
「そう、『浦島太郎』は、あっという間に、お爺さんになったんだぞ」
「『浦島太郎』は、おとぎ話だよ」
(続く)
0 件のコメント:
コメントを投稿