2022年4月20日水曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その204]

 


「そうかあ、うーむ、父さんの話が長いと思っていたのか?」


と、『少年』の父親は、『少年』に覗き込まれた自らの顔を少しく歪めた。『牛田新町一丁目』のバス停を背にし、家族と共に、自宅へと向っているところであった。


「父さんの話が、ただ取り留めもなく、だらだらと続く、『デラシネ』なもののように思っていたのかあ」

「『デラシネ』?」

「ああ、『デラシネ』ってな…」

「そうじゃないんだ。父さんは、『福屋』の大食堂でも色んなことを教えてくれたけど、八丁堀からバスに乗ってからは、もっともっと色んなことを、沢山のことを教えてくれたと思う」

「ビエールは、その話にちゃんと付いてこれたと思う。それは凄いことだと思う」

「でもね、疑問があるんだ」

「え?」

「八丁堀から牛田って、バスで10分から15分くらいなんでしょ?」

「そうだ。大体、そのくらいだな」

「その10分から15分くらいの間に、父さんは、あんなに沢山のことをボクに話してくれたの?」

「そんなに深く話したわけではないが、色々と話はしたな」

「八丁堀から牛田まで、随分、時間がかかったような気がするんだ。ううん、時間はあまり経っていないのに、どうして、あんなに沢山ことを父さんから教えてもらえたんだろう?」

「ああ、そういうことかあ。時間の進み方が遅かったのかもしれんな」

「ええ!?時間が早く進んだり、遅く進んだりするの?そんなことってあるの?」

「あるんじゃないかなあ。ビエールはまだ、小学校を卒業したばかりだから分らないだろうが、小学校の時代って、とっても長かったように感じるものなんだ。同じ6年でも大人になってからの6年なんて、あっという間に過ぎ去っていくんだよ」

「ふううん。でも、それって、そう感じるだけでしょ」

「さあ、どうだろう?『浦島太郎』は知っているだろ?」

「勿論、『♫助けた亀に乗せられて竜宮城に行ってみれば』で、でも、玉手箱を開けて、お爺さんになったんでしょ」




「そう、『浦島太郎』は、あっという間に、お爺さんになったんだぞ」

「『浦島太郎』は、おとぎ話だよ」



(続く)




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