(夜のセイフク[その53]の続き)
「(しかし、ボクは何の主役を演じるのだろう?)」
主役となる覚悟は決めたものの、ビエール・トンミー君は、自分がどんなドラマの主役となるのかを知らなかった。
「脚本は、もう少しでできるからね。楽しみにしててね。ふふ」
と云うエヴァンジェリスト君の含み笑いが気になった。
「(まさかあ……..)」
ビエール・トンミー君は、宇宙服を着た自分を想像した。
「(嫌だ!宇宙服を着て、うさぎと記者会見なんかしたくない!)」
放送劇だから、衣装を着ることもないし、うさぎと並んで記者会見する姿を見られることもない。
そのことに気付かない程、ビエール・トンミー君は、動揺していた。
「(『月にうさぎがいた』の宇宙飛行士役なんて死んでも嫌だ!)」
主役降板を意識し始めた時であった。
1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室である(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)。昼休みであった。
「お待たせしたね!」
快活な声と共に、冊子『東大』が、ビエール・トンミー君の机の上に置かれた。
(続く)
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