(夜のセイフク[その63]の続き)
「(エヴァ君は、何を分ったと云うのだ?)」
ビエール・トンミー君は、エヴァンジェリスト君に、
「いや…..あの…..ヒロコの…」
と云っただけであった。なのに、
「ああ、そうかあ。うん、分ったよ。安心して、ボクに任せて」
と云うと、エヴァンジェリスト君は、去って行ったのだ。
しかし、ビエール・トンミー君の疑問は、その翌日、直ぐに解けた。
その日は、初練習の日であった。
エヴァンジェリスト君が冊子『東大』に発表した『されど血が』という脚本、のようなものをベースとする放送劇の練習である。
1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室である(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)。放課後であった。
劇のメンバーが集った。
「(ボクは、本当に主役を演じるんだ….)」
ビエール・トンミー君の背中には、改めて緊張が走った。
脚本家のような者であり、監督であるエヴァンジェリスト君の前に、ビエール・トンミー君を含め、4人の出演者が並んだ。
ビエール・トンミー君と出演者の間には、オープンリールのテープ・レコーダーが置かれていた。まだ、カセット・テープのない時代であった。
「あ、ごめんね、遅れて。ちょっと部室に行っとたけえ」
ビエール・トンミー君は、背中から聞こえて来た声の方を振り向いた。
(続く)
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