2018年9月13日木曜日

夜のセイフク[その65]





「(え?....何故だ?)」

声の主は、最近、ビエール・トンミー君に秋波を送ってくるようになっていた隣席の女子生徒であった。

「(何故、彼女がいるんだ?彼女が『東大に入る会』の会員だって聞いたことがないぞ)」

ビエール・トンミー君は、口を開けた。

「もう配役は紹介したん?」

ソフトテニス部の部室に顔を出して来た女子生徒が、ビエール・トンミー君の隣の席につきながら、問いを発した。



1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室である(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)。放課後であった。

「いや、まだだよ」

エヴァンジェリスト君が、優しく答えた。

「ほうねえ。じゃあ、ビエ君は、まだ知らんのんじゃね」
「は?」

ビエール・トンミー君は、思わず反応した。

「アタシが、ヒロコじゃけえね。ふふ」
「ええ!?....ええ、ええ、ええ!」
「ビエ君の相手役よーね」
「(ど、ど、どういうことだ?)」

ビエール・トンミー君は、口を開けたままでいた。

「照れんでええよ」

というと、ソフトテニス部の部員の女子生徒は、ビエール・トンミー君の横腹を肘で突いた。

「うっ」

ビエール・トンミー君は、呻いた。

「だけど、君はヒロコじゃないんだ」

『されど血が』の脚本家のような者であり、監督であるエヴァンジェリスト君が、想定外の言葉を発した。


(続く)



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