(夜のセイフク[その64]の続き)
「(え?....何故だ?)」
声の主は、最近、ビエール・トンミー君に秋波を送ってくるようになっていた隣席の女子生徒であった。
「(何故、彼女がいるんだ?彼女が『東大に入る会』の会員だって聞いたことがないぞ)」
ビエール・トンミー君は、口を開けた。
「もう配役は紹介したん?」
ソフトテニス部の部室に顔を出して来た女子生徒が、ビエール・トンミー君の隣の席につきながら、問いを発した。
1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室である(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)。放課後であった。
「いや、まだだよ」
エヴァンジェリスト君が、優しく答えた。
「ほうねえ。じゃあ、ビエ君は、まだ知らんのんじゃね」
「は?」
ビエール・トンミー君は、思わず反応した。
「アタシが、ヒロコじゃけえね。ふふ」
「ええ!?....ええ、ええ、ええ!」
「ビエ君の相手役よーね」
「(ど、ど、どういうことだ?)」
ビエール・トンミー君は、口を開けたままでいた。
「照れんでええよ」
というと、ソフトテニス部の部員の女子生徒は、ビエール・トンミー君の横腹を肘で突いた。
「うっ」
ビエール・トンミー君は、呻いた。
「だけど、君はヒロコじゃないんだ」
『されど血が』の脚本家のような者であり、監督であるエヴァンジェリスト君が、想定外の言葉を発した。
(続く)
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