(夜のセイフク[その54]の続き)
「(宇宙飛行士役なら降板だ!いや、うさぎ役でも降板だ!)」
秀才美少年ビエール・トンミー君は、恐る恐る、冊子『東大』の表紙をめくった。
「(….?)」
そこに見た文字は、全く予期しないものであった。
「(『血』……)」
席の横に立っているエヴァンジェリスト君を見上げた。
「家に持って帰っていいよ。ゆっくり読めばいいさ」
ネイティヴな広島人であるのに広島弁を使わぬもう一人の秀才美少年は、そう云うと、ビエール・トンミー君の席から離れて行った。
1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室である(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)。昼休みであった。
「(『されど血が』…..って……)」
ビエール・トンミー君の机の上に置かれた冊子『東大』の巻頭の読み物は、『されど血が』というタイトルの脚本、のようなものであった。
「(エヴァ君…..君は……)」
冊子に落としていた視線を上げ、教室の入り口近くの席にいるミージュ・クージ君に何やら話し掛けているエヴァンジェリスト君を凝視した。
(続く)
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