(夜のセイフク[その52]の続き)
「いやあ…..ボクが主役なんて……..」
想像だにしていなかった事態に、ビエール・トンミー君は、動揺を隠せなかった。
「君しかいないよ、主役は」
「でもお…..」
美少年は、口を鯉のようにパクパクさせた。
「ビエ君、主役やるん?」
口を開いたまま、ビエール・トンミー君は、隣席の方に顔を向けた。
「アンタら、芝居でもやるん?」
ビエール・トンミー君とは気が合いそうだと思い、照れた女子生徒だ。
1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室である(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)。昼休みであった。
「ああ、楽しみにしてね」
エヴァンジェリスト君は、自信満々だ。
「ビエ君が主役だもんねっ!」
ビエール・トンミー君は、顔が紅潮するのを抑えようがなかった。
「(仕方ないなあ。主役なんて考えたこともなかったが、人々が望むなら受けざるを得まい)」
ビエール・トンミー君は、覚悟を決めた。
(続く)
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