2018年10月9日火曜日

夜のセイフク[その87]






「エヴァ君…….」

ビエール・トンミー氏は、10月だというのに真夏日となったその夜、庭に出て月を見上げていた。

2018年10月7日の夜、ビエール・トンミー氏の自宅の庭である。

「あの時、君は…..」

逆三日月の月を見上げなから(逆にしても三日月というには、かなり細い月であったが)、友人が『あの時』にしたアントニオ猪木の顔真似を思い出していた。

1970年の広島県立広島皆実高校の体育館で行われた『弁論大会』で、エヴァンジェリスト君は、弁論者として『弁論』を終え、体育館座りした1年7ホームの生徒たちのところに、身を屈めながら、そっと帰ってきた時、エビエール・トンミー君に向かって、いきなり顎を伸ばし、前に突き出したのだ。

アントニオ猪木の顔真似をしたのだ。



その少し前に、『弁論』というよりも形而上学的な独白といった方が相応しい『弁論』の最後で、

『夜をセイフクする。ボクは、夜をセイフクする!』

と叫び、聴衆を沈黙的混乱に陥れた同じ人間とは思えぬ挙動であった。

「君はいつだってそうだった….」



(続く)



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