(夜のセイフク[その86]の続き)
「エヴァ君…….」
ビエール・トンミー氏は、10月だというのに真夏日となったその夜、庭に出て月を見上げていた。
2018年10月7日の夜、ビエール・トンミー氏の自宅の庭である。
「あの時、君は…..」
逆三日月の月を見上げなから(逆にしても三日月というには、かなり細い月であったが)、友人が『あの時』にしたアントニオ猪木の顔真似を思い出していた。
1970年の広島県立広島皆実高校の体育館で行われた『弁論大会』で、エヴァンジェリスト君は、弁論者として『弁論』を終え、体育館座りした1年7ホームの生徒たちのところに、身を屈めながら、そっと帰ってきた時、エビエール・トンミー君に向かって、いきなり顎を伸ばし、前に突き出したのだ。
アントニオ猪木の顔真似をしたのだ。
その少し前に、『弁論』というよりも形而上学的な独白といった方が相応しい『弁論』の最後で、
『夜をセイフクする。ボクは、夜をセイフクする!』
と叫び、聴衆を沈黙的混乱に陥れた同じ人間とは思えぬ挙動であった。
「君はいつだってそうだった….」
(続く)
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