2018年10月22日月曜日

【ビエールのオトナ社会科見学】ホイコーローを作る[その2]






「(う、う、内田有紀!?)」

鞄で隠してはいたが、左手で股間を抑えたまま、ビエール・トンミー氏は、心中語で吃った。




「アータ、どうしたの?」

隣に座っている妻が声を掛けた。

「ん!?...ああ、今日、楽しみだねえ」
「そうねえ。アータとこうしてお出掛けして、『学べる』のって、幸せだわ」
「うん、ボクも」

もう64歳になった老人が、『ボク』も、ってどうかとは思うが、妻と相対していると、若返るのだ。マダム・トンミーは、夫よりも10歳も若いのだ。

「(ああ、いけない!.....ボクには、こんな若くて可愛い妻がいるのに)」

妻の横顔を見た。妻の体臭がほのかに匂った。

「(…ああ、この匂いだ。…..ふううん….安心する匂いだ)」

昨晩、ビエール・トンミー氏は、夢にうなされた。

「て…が….た….ああ、ううーーーーーー!」

と寝言というか、寝たまま呻き声を上げたらしい。

絞れば汗が落ちる程に、パジャマが濡れており、マダム・トンミーは、夫のパジャマを脱がせ、全身をタオルで拭いた。股間だけは、『事情』があり、拭くのに少し苦労したが。

「ううーーーーーー!違う、違ううううううう」

と呻く裸の夫を、マダム・トンミーは、抱き締めた。

「アータ、もういいのよ」

そして、自分の胸に夫の顔を埋め、夫の頭を撫でた。

「アータ、もう会社は辞めてるのよ。もう苦しまなくていいの」

マダム・トンミーは、涙ぐみながら、夫の顔をさらに強く自分の胸に押し抱いた。

その時、ビエール・トンミー氏は、意識を失ったままであったが、

「(….な、なんだ、この匂いは?咲子の香水ではないな。…でも、安心する匂いだ)」

と、妻に救われたのであった。




「(それなのに、ボクとしたことが、他の女性に…….それに、南武線にいる訳がないではないか、内田有紀が!)」

しかし、ビエール・トンミー氏はまだ、鞄で隠してはいたが、左手で股間を抑えたままであった。


(続く)


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