「アータ、どうしたの?」
横断歩道を渡るのに歩が遅れる夫に、マダム・トンミーが声を掛けた。
「いや、鞄がちょっと脚に当って….」
確かに『カメレオン』をぶら下げた鞄が夫の脚というか、股間に当っていた。
『カメレオン』は、口からメガネ拭きを出すアクセサリーだ。マダム・トンミーが夫に買ってやったものである。それを夫は、外出用の鞄に付けたのだ。
「これを鞄に付けてると、一人で外出した時も君を感じられるんだ、股間にね。むふっ!」
「んんん、もう!アータったら」
夫は、『変態』だ。会社の情報システム部のエースと云われ、スマートな先輩であった。
自分が所属するマーケティング部のシステムの開発が切っ掛けで付合うようになったが、付合い始めの頃は、夫は『正体』を見せなかった。
段々と『付合い』が深まるにつれ、夫は『変態』振りを見せるようになったが、『変態』なカレシも嫌ではなかった。
夫は、会社の女性社員の憧れの的であったのだ。そのハンサム先輩を自分が射止めたのだ。
そして、会社ではスマートなところしか見せない先輩が、自分の前では『変態』となることを自分以外の誰も知らない。それが、嬉しかったのだ。
「アタシだけだは、カレの『コト』を知ってるの。ふふ」
マダム・トンミーは、夫の鞄からぶら下がる『カメレオン』を見ながら、思わず呟いたのであった。
(続く)
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