(夜のセイフク[その89]の続き)
「え?アラン・ドロンですって?」
リビングルームから、妻が再び、声をかけてきた。
「いや……」
2018年10月7日の夜、ビエール・トンミー氏は、自宅の庭に出て、夜空の月を見上げながら、広島県広島県立皆実高校の1年生であった頃のことを思い出し、呟いていた。
友人であり、広島県広島県立皆実高校の1年7ホーム(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)の同級生であったエヴァンジェリスト君が、自身が主宰する冊子『東大』に連載する読み物『ミージュ・クージ vs ヒーバー』に『アランド・ロン警部』が登場させたことを独り言ちていた。
『アランド・ロン警部』は、ビエール・トンミー君をモデルにしていたのだ。
「アラン・ドロンのインタビューなら録画してあるわよ」
NHKのBSプレミアで『アラン・ドロン ラストメッセージ~映画 人生 そして孤独~』というインタビュー番組が、2018年9月22日に放映されたのだ。
「いや、いいよ」
ビエール・トンミー氏は、リビング・ルームに向かって答えた。
「(美男子の孤独なら、ボクは、よく分る。だが…….)」
その時、月は雲に隠れ、夜空は『闇』となった。
『夜をセイフクする。ボクは、夜をセイフクする!』
1970年の広島県立広島皆実高校の体育館で行われた『弁論大会』で、『夜のセイフク』と題して、とても『弁論』とは云えぬ内容の『弁論』で聴衆を戸惑わせたエヴァンジェリスト君が、『弁論』の最後に放った言葉が、ビエール・トンミー君の頭の中に響いた。
「(....だが、エヴァ君、ボクには君が分からない。君は、何の為に『何会』を作ったのだ?『月にうさぎがいた』で何を云いたかったのだ?『東大に入る会』を作った目的は、何だったのだ?どうして、『ミージュ・クージ vs ヒーバー』でヒーバーは現れなかったのだ?『されど血が』を何故、書き、『放送』したのだ?『夜のセイフク』は、果して『弁論』であったのか?『夜をセイフクする』ってどういう意味なのだ?エヴァ君、ボクには君が分からない)」
夜の『闇』に、『エヴァンジェリスト』という存在の『謎』に『セイフク』されそうになった時であった。
「アータ、できたわよ!」
リビング・ルームからいい匂いが漂ってきていた。
カップ・ヌードルであった。先日、夫婦で『カップヌードルミュージアム』に行き、自分で作ったカップヌードルをその夜、食べることにしていたのであった。
「ああ、今、行く」
カップ・ヌードルは、ビエール・トンミー君を救い、庭には、エヴァンジェリスト君的『闇』が残された。
(おしまい)
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