「スズ……..ううーーーーーー!」
驚いて目を開けた。八度目だ。マダム・トンミーは、完全に身を起こし、横で寝ている夫の方に体を向けた。
「アータ…..!」
マダム・トンミーは、ベッドの上で、夫のパジャマの上を脱がせた。絞れば汗が落ちる程に、パジャマが濡れていた。
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「て…が….た….ああ、ううーーーーーー!」
マダム・トンミーは、夫のパジャマの下も脱がせた。股間から異臭がした。
「うっ!」
噎せたが、下着も取り、タオルで夫の全身を拭いた。股間だけは、『事情』があり、拭くのに少し苦労した。
「ううーーーーーー!違う、違ううううううう」
「アータ!」
マダム・トンミーは、裸の夫を抱き締めた。
「アータ、もういいのよ」
自分の胸に夫の顔を埋め、夫の頭を撫でた。
「アータ、もう会社は辞めてるのよ。もう苦しまなくていいの」
夫は、一流会社に勤務し、もう5年前に(2013年に)リタイアしているのだ。
「でも、色々あったのね」
そこそこの地位にもつき、会社のマドンナと云われた自分と結婚もし、会社で特段の苦労をしたとは思っていなかった。
「そうよ、分かるわ。会社ってそういう所なのよね」
完全リタイアし、もうすっかり日々、退屈を持て余しているだけの老人と思っていたが、夫はまだ、会社勤めのストレスから解放されていなかったのだ。
「ごめんなさい、気が付かなくて」
マダム・トンミーは、涙ぐみながら、夫の顔をさらに強く自分の胸に押し抱いた。
「うっ!」
ビエール・トンミー氏は、意識を失ったまま、噎せた。
「(….な、なんだ、この匂いは?咲子の香水ではないな。…でも、安心する匂いだ)」
引きつっていたビエール・トンミー氏の顔が緩んだ。
「アータ….あら、少し落ち着いた?」
マダム・トンミーは、夫の頭を撫で、髪にキスをした。
「ん…?でも、何かしら、サキ、とか、スズとか…..」
(おしまい)
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