2018年10月4日木曜日

夜のセイフク[その82]






体育館のステージには、凛々しくも美しい少年が現れたのだ。

1970年の広島県立広島皆実高校の体育館であった。その日は、弁論大会の日で、全校生徒が体育館に集合していた。

体育館内のざわめきは増した。

「誰ねえ、あの子?」
「ああような子、おったかいねえ、ウチの高校に?」
「見たことあるけど、名前は知らんかった」
「ほいじゃけど、綺麗じゃねえ」

上級生の女子生徒たちは、ステージに登場した少年に魅了された。

「ちっ!」

自身も美少年であるビエール・トンミー君は、誰にも聞こえぬよう、舌打ちをした。

「エヴァンジェリスト君!」

と、司会の先生に名を告げられた少年は、演台の前に立つと、両手を演台に置いた。



しかし、少年は、正面のどこかに視線を遣ったまま、口を開かない。

それまでのものとは種類の違うざわめきが起き始めた。

「どうしたんじゃろ?」
「はよう、どうような声なんか、聞きたいんじゃけどねえ」
「ああように綺麗じゃけど、アガッとるんかねえ?」

ステージの袖に隠れた司会の先生も心配となり、演台の少年に対して、声を掛けようとした時であった。

「夜、作り付けの畳の二段ベッドに寝る」

美少年は、突然、そう語り始めた。



(続く)



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