(夜のセイフク[その81]の続き)
体育館のステージには、凛々しくも美しい少年が現れたのだ。
1970年の広島県立広島皆実高校の体育館であった。その日は、弁論大会の日で、全校生徒が体育館に集合していた。
体育館内のざわめきは増した。
「誰ねえ、あの子?」
「ああような子、おったかいねえ、ウチの高校に?」
「見たことあるけど、名前は知らんかった」
「ほいじゃけど、綺麗じゃねえ」
上級生の女子生徒たちは、ステージに登場した少年に魅了された。
「ちっ!」
自身も美少年であるビエール・トンミー君は、誰にも聞こえぬよう、舌打ちをした。
「エヴァンジェリスト君!」
と、司会の先生に名を告げられた少年は、演台の前に立つと、両手を演台に置いた。
しかし、少年は、正面のどこかに視線を遣ったまま、口を開かない。
それまでのものとは種類の違うざわめきが起き始めた。
「どうしたんじゃろ?」
「はよう、どうような声なんか、聞きたいんじゃけどねえ」
「ああように綺麗じゃけど、アガッとるんかねえ?」
ステージの袖に隠れた司会の先生も心配となり、演台の少年に対して、声を掛けようとした時であった。
「夜、作り付けの畳の二段ベッドに寝る」
美少年は、突然、そう語り始めた。
(続く)
0 件のコメント:
コメントを投稿