「ゴー!」
驚いて目を開けた。四度目だ。マダム・トンミーは、もう慣れた様子で、ベッドに体を横たえたまま、片肘をつき、背後に頭を回した。
「アータ…..」
やはり、夫はまだ寝ている。夫は、汗をかいている。三度もタオルで拭いてあげたのに、また酷い寝汗であった。
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「部長!......部長!」
「(…..ん?)」
「もう!いい加減にして下さい!」
「(…..ん?.....ん?)」
「勤務中ですよ!寝たふりなんて!」
「(…..ん!)」
眼を開けた。部下の今井咲子が、デスクの横に仁王立していた。
「いや….ちょっと、考え事をね…」
「誤魔化そうとしたって!」
「ええ!?」
「会費払っていないの、トンミー部長だけですよ!」
「会費?」
他の部員たちが、こちらを見ている。
「とぼけないで!」
「(とぼけるもとぼけないも…..何の『会』だ?『会』って、高校時代に『東大に入る会』しか入ったことがないし、『東大に入る会』に会費はなかった)」
「鈴子の送別会の会費です!」
「鈴子…….」
と、今井咲子は、身を屈め、耳元で囁いた。香水が鼻先に漂った。
「ビエール!鈴子とはどういう関係だったの?」
「うっ…….」
動揺に手が震え、デスク上にあったシャープ・ペンシルを床に落とした。
(続く)
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