「マン!」
驚いて目を開けた。五度目だ。マダム・トンミーは、すっかり慣れた様子で、ベッドに体を横たえたまま、片肘をつき、背後に頭を回した。
「アータ…..」
確認するまでもなく、夫はまだ寝ていた。夫は、汗をかいていた。四度もタオルで拭いてあげたのに、酷い寝汗が止まっていない。
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「(鈴子…….咲子は、知っていたのか。浦野鈴子とオレは…..)」
「また、寝たふりですか!」
「(…..ん!)」
眼を開けた。部下の今井咲子が、まだデスクの横に仁王立していた。
「5万円です!」
「5万円?」
「会費です。鈴子の送別会の」
「(5万円?会費が5万円って、そんなべらぼうな!)」
「アナタ、部長なんだからそのくらいの金額は当然でしょ!」
「(『アナタ』!?)」
「責任だって取らないと!」
「せ、せ、責任!」
『責任』という言葉に、他の部員だけでなく、隣の部署の社員たちも、こちらを見た。
「そうよ、自分でしょ、あんな高い店を選んだの。その責任はとって頂かなくっちゃ」
と、今井咲子は、身を屈め、耳元で囁いた。また、香水が鼻先に漂った。
「ビエール!鈴子は、アナタに遊ばれて、そして、棄てられて、会社を辞めることになったんでしょ。本当は、そのセ・キ・ニ・ン!」
「うっ…….」
動揺に手が震え、デスク上にあったコードレス・マウスを床に落とした。
(続く)
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