(夜のセイフク[その84]の続き)
「闇は何も云わない」
そのような言葉を連発するエヴァンジェリスト君の『弁論』は、とても弁論大会の『弁論』と呼べるものではなかった。
そして、エヴァンジェリスト君の『弁論』の意味を、そこにいる誰も、生徒も先生も、理解することはできなかった。ただ一人、ビエール・トンミー君を除いて。
1970年の広島県立広島皆実高校の体育館であった。その日は、弁論大会の日で、全校生徒が体育館に集合していた。1年7ホームの番で(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)、エヴァンジェリスト君が、『弁論』をしていた。
「闇は沈黙する」
そんなエヴァンジェリスト君の『弁論』の意味を理解することはできなかったが、感情を出さない『弁論』ながら、彼が『何か』を叫んでいることだけは、皆、感じていた。
だから、それが『弁論』であろうとなかろうと、体育館も沈黙していた。
「………..」
そして、ついに、エヴァンジェリスト君は、自らの感情を露わにした言葉を発した。
(続く)
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