(夜のセイフク[その87]の続き)
「アータ、何か云った?」
リビングルームから、妻が声をかけてきた。
「いや、なんでもないよ。夜空が君のように綺麗なんだ」
「アータったら、もう!」
2018年10月7日の夜、ビエール・トンミー氏は、自宅の庭に出て、夜空の月を見上げていた。
逆三日月の月は(逆にしても三日月というには、かなり細い月であったが)、『三日月』的な顔の持ち主であるアントニオ猪木を思い出させた。
そして、高校時代に弁論大会で『弁論』を終えた後に、アントニオ猪木の顔真似をした友人のことを思い出させたのであった。
1970年の広島県立広島皆実高校の体育館で行われた『弁論大会』で、『夜のセイフク』と題して、とても『弁論』とは云えぬ内容の『弁論』で聴衆を戸惑わせたエヴァンジェリスト君は、『弁論』を終え、体育館座りした1年7ホームの生徒たちのところに、身を屈めながら、そっと帰ってきた時、ビエール・トンミー君に向かって、いきなり顎を伸ばし、前に突き出したのだ。
『闇は何も云わない』
『闇は沈黙する』
『夜をセイフクする。ボクは、夜をセイフクする!』
と、理解不能な、しかし、どこか神妙な『弁論』をしたばかりなのに、エヴァンジェリスト君は、アントニオ猪木の顔真似をして戯けてみせたのだ。
「君は、アンチノミーな男だ。結局、『東大に入る会』は何だったのだ?」
(続く)
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