「エン!」
驚いて目を開けた。六度目だ。マダム・トンミーは、やや飽き飽きした様子で、ベッドに体を横たえたまま、片肘をつき、背後に頭を回した。
「アータ…..!」
夫はただ寝ているだけでなく、少し震えていた。汗は、顔だけではなく、首筋からも出てきていた。
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「(鈴子…….鈴子は、ヨカッタア……)」
「でも、アタシの方が、もっとイイでしょ。ふふ」
「(ああ、そうだ。咲子の方が、イイ…..ん?)」
「だから、アタシに乗り換えたのよねええ。ふふ」
「(ああ、そうだ。….だから、鈴子は。でも、咲子の方が…..)」
「でしょ。今夜も、いいわ。ふふ」
「(??.....咲子は、どうしてボクの心の声が聞こえているんだ?)」
自分が、また眠りに落ちていることに気付いていた。
「とにかく、5万円払って下さい!」
眼を開けた。部下の今井咲子が、デスクの横に仁王立し続けていた。
「いやあ、急に云われても…..」
「部長なんだから、5万円くらいお持ちでしょ!」
さっきまでとは随分、態度(というか、言葉つき)が違う。
「(いや、お金の管理は妻で、財布にはいつも3,000円しか入っていない。それに、母に借りた512円もまだ返せていないのに)」
「困りましわたねえ」
と、今井咲子は、身を屈め、耳元で囁いた。また、香水が鼻先に漂った。
「引き出しを開けて。手形が入っているわ」
(続く)
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