(【50,512】マダム・トンミー、夫を救う[その1]の続き)
「イーチ!」
再び、驚いて目を開けた。そして、マダム・トンミーは、また、ベッドに体を横たえたまま、片肘をつき、背後に頭を回した。
「アータ…..」
やはり夫であった。夫が寝ていた。夫は、汗をかいていた。さっきタオルで拭いてあげたのに、また酷い寝汗であった。
-----------------------------
「お母様、ウインナーのおかずを買って待ってらっしゃるわ」
妻の言い方は、心配と不満とが入り混じったものであった。
「ええ!」
ウインナーのおかずは、子どもの頃からのボクの好物だ。
「『ノイ・フランク』まで買いにいらしたらしいわ」
「え!?国立まで?」
『ノイ・フランク』は、東京は国立市にある手作りソーセージの名店である。
「ビエちゃんの為なら、ですって」
「ビエちゃんって……」
還暦もとうに過ぎ、まもなく基礎年金の受給資格の年齢になるというのに、母親にとって子どもはいつまで経っても子どもなのだ。
え?還暦?.......
「首を、ウインナーよりも長くして待ってらっしゃるの。アータが会社からお戻りになるのを」
え?ウインナー?......『ノイ・フランク』にウインナーのおかずってあっただろうか?.....会社?
「返せるの、今日?」
妻の言葉が、矢のように、ボクの体に、ボクの心に刺さり、上がり框に腰を落としたまま、再び、項垂れた。
(続く)
0 件のコメント:
コメントを投稿