2018年10月14日日曜日

【50,512】マダム・トンミー、夫を救う[その2]






「イーチ!」

再び、驚いて目を開けた。そして、マダム・トンミーは、また、ベッドに体を横たえたまま、片肘をつき、背後に頭を回した。

「アータ…..」

やはり夫であった。夫が寝ていた。夫は、汗をかいていた。さっきタオルで拭いてあげたのに、また酷い寝汗であった。


-----------------------------


「お母様、ウインナーのおかずを買って待ってらっしゃるわ」

妻の言い方は、心配と不満とが入り混じったものであった。

「ええ!」

ウインナーのおかずは、子どもの頃からのボクの好物だ。


「『ノイ・フランク』まで買いにいらしたらしいわ」
「え!?国立まで?」

『ノイ・フランク』は、東京は国立市にある手作りソーセージの名店である。

「ビエちゃんの為なら、ですって」
「ビエちゃんって……」

還暦もとうに過ぎ、まもなく基礎年金の受給資格の年齢になるというのに、母親にとって子どもはいつまで経っても子どもなのだ。

え?還暦?.......

「首を、ウインナーよりも長くして待ってらっしゃるの。アータが会社からお戻りになるのを」

え?ウインナー?......『ノイ・フランク』にウインナーのおかずってあっただろうか?.....会社?

「返せるの、今日?」

妻の言葉が、矢のように、ボクの体に、ボクの心に刺さり、上がり框に腰を落としたまま、再び、項垂れた。


(続く)


0 件のコメント:

コメントを投稿