「ニー!」
三度、驚いて目を開けた。そして、マダム・トンミーは、またまた、ベッドに体を横たえたまま、片肘をつき、背後に頭を回した。
「アータ…..」
夫である。夫はまだ寝ている。夫は、汗をかいている。二度もタオルで拭いてあげたのに、また酷い寝汗であった。
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「ダメだったのね?」
妻は予期していたのだ。
「…..ああ」
その声が妻に聞こえたかどうか、分からない。
「どうするの?」
「どうもこうも…..」
「どうして、お母様にお金を借りたの?」
「いや、分からない…..」
「分からないじゃないでしょ、自分のことでしょ!」
妻は興奮してきた。
「しっ!....母に聞こえる」
「お母様に聞かれて悪いことでもしたの?」
「いや….」
「浮気?」
「う!...う、うわ….そ、そんな!」
「お母様に借りた512円、オンナに使ったのね!」
「ち、ち、違うよお!」
その時、リビングルームにつながる扉が開く音がした。
「どうしたの?」
母だ!ああ、おしまいだあ!ボクは、512円を調達できなかった。母に512円を返せない。母は、今日、ボクが512円を返すのを楽しみにしていたのに。それを楽しみに、ボクの好物のウインナーのおかずを買いに国立まで行ってくれたというのに!
頭の中に、数字の『5』と『1』と『2』が渦巻き、体までも渦巻き、目の前が暗くなり、気がつくとボクは玄関に倒れていた。
倒れたボクが、どうして自分が倒れたことに気づいたのかも分からぬ程の混乱の渦であったのだ。
(続く)
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