我慢した。ビエール・トンミー氏は、我慢した。
「(そうだ、南武線に、内田有紀がいる訳がない。空似だ…..)」
ビエール・トンミー氏は、必死で自身を納得させようとしていた。そして、『内田有紀』の方を視ないよう、我慢した。
「エヴァちゃんがね」
そうだ、こういう時は、あの男を持ち出すに限る、とビエール・トンミー氏は、友人の名前を口にした。アイツのことを考えると、『萎える』。
「アイツ、少し前まで地方出張ばかりしてただろ」
「ええ、そうですってね」
「羽田空港に行く時には、国立駅からじゃなくって、谷保駅から南武線に乗るんだって」
「あら、どうして?」
「中央線は混むし、人身事故やらなんやらで遅延することも多いんだって。その点、南武線は中央線程、混まないし、遅延することもそんなに多くないらしいんだ」
「ふーん」
妻には、興味のない話だ。しかし、それでいいのだ。『鎮める』ことができれば、それでいいのだ、アソコを。
「南武線で川崎まで行って、少し歩いて京急川崎まで行くんだって」
自分だって、エヴァンジェリスト氏が出張の際に、どういう経路で羽田空港まで行くか、なんて全く興味はない。
「ふーん….あ-….」
妻は、軽くあくびをした。いいのだ、いいのだ、それで。
(続く)
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