2019年3月7日木曜日

住込み浪人[その18]







「ボクは、『住込み浪人』だ、それも、二浪目だが、ただの『住込み浪人』ではないぞ!インテリ『住込み浪人』だ!

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、東京メトロポリタン大学のすぐ近くの友人であるエヴァンジェリスト氏の下宿で、そう友人に気色ばんだ。

….つもりであったが、

「君ねえ。この列は、カレーだよ」

背後から、若い男の声がした。

「は?」
「だからさあ、さっきから、『たい焼き』だの、『マイ』だの『ビ』だの、訳の分からないこと呟いてるけどさあ」

ようやく気付いた。『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、OK牧場大学の学生食堂で、トレイを持って、カレーのカウンターの列に並んでいたのだ。

「これだから、『住込み浪人』は嫌なのさ。学食には、『出禁』にすればいいのに」



背後の若い男、OK牧場大学の学生は、差別的な言葉を吐いた。

「う………」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、聞こえぬ程に小さい唸り声を上げた。


(続く)



2019年3月6日水曜日

住込み浪人[その17]







「なにい!たかが、『たい焼き』だとお!『たい焼き』を侮ると、今度もまた、ハンカチ大学に受からないぞ!

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、友人エヴァンジェリスト氏に恫喝された。東京メトロポリタン大学のすぐ近くのエヴァンジェリスト氏の下宿に遊びに来ていた時のことであった。

「馬鹿云え!ハンカチ大学の入試に、『たい焼き』の数え方なんて、出やしない!」
「そういう問題ではないぞ。入試に出るなんて、云ってはいない。常識の問題だ」
「『たい焼き』の数え方に常識があるのか?」
「あるとも。『枚』と数えるんだ。『たい焼き』屋で『6個』なんて注文したら、笑われるぞ」
「君が買っているアソコの店だけだろ、『枚』と数えるのは。ひょっとして、『6個』と云って注文して怒られたことがあるのか?」

エヴァンジェリスト氏が、『たい焼き』を買う店は、私鉄の『メトロポリタン大学』駅から下宿までの間にあった。

「うっ!」
「ははーん。図星だな。そもそも、何故、『枚』と数えるのだ。『個』でもいいだろうし、『たい焼き』を『魚』だとするなら、『尾』であろうぞ」
「ううっ!」
「ハハハハハ!」



『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、指圧で有名な『ナメコシ・トクサブロー』ばりに高らかに笑った。


(続く)




2019年3月5日火曜日

住込み浪人[その16]







「(自分が食べるだけなら構わんが、ボクにまで薦めやがった….)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、唇を歪め、それだけではなく、口の中、何故か、舌まで歪めた。

「(アレは、お菓子だろうが!)」

東京メトロポリタン大学のすぐ近くの下宿で、満足そうに、『アレ』を頬張る友人エヴァンジェリスト氏の姿を思い出した。

その下宿に遊びに行った時のことであった。

「君は、一体、そんなもの6個も食べて、気持ち悪くならないのか?」

と、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年が、訊くと、普段は、ヘラヘラしている友人が、眉間に皺を寄せ、口を尖らせ、抗議してきた。

「6個ではない!6枚だ!これは、『枚』と数えるんだ!」
「ふん、どっちでもいいだろうに。たかが、『たい焼き』ではないか!」



そうなのだ。エヴァンジェリスト氏が、夕食として頬張っていたのは、『たい焼き』であったのだ。


(続く)



2019年3月4日月曜日

住込み浪人[その15]







「(ここの学食も、夜も営業すればいいのに)」

OK牧場大学の学生食堂で、トレイを持って、カレーのカウンターの列に並んでいる『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、そう思った。

16:30には、OK牧場大学の学食は、店じまいするのだ。

「(エヴァの奴によると、東京メトロポリタン大学の学食は、夜もやってるというのに)」

東京メトロポリタン大学のすぐ近くに下宿するエヴァンジェリスト青年は、夕飯を東京メトロポリタン大学の学食ですませることも多い、と聞いたのだ。

「(あそこの学生ではないのに)」

そうであった。『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の友人であるエヴァンジェリスト氏は、東京メトロポリタン大学の学生ではなく、ここOK牧場大学の学生であった。

「(『メトロポリタン大学の学食は安くていいぜ』と云いやがった)」

古いお屋敷の家の8畳一間に下宿する貧乏学生のエヴァンジェリスト氏にとって、食費が抑えられることは有難かったのだ。



「(あんな貧乏人が、どうしてOK牧場大学になんか入ったのだ)」

どうして入ったのか、と云っても、それは受験して合格したからに過ぎなかったのだ。

「(本当は、お坊っちゃまのボクこそ、OK牧場大学の学生に相応しいのだ)」


とはいえ、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の志望校は、あくまでハンカチ大学であった。

「(メトロポリタン大学の学食だけならまだしも、エヴァの奴、『あんなもの』を夕食に摂るなんて…..)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、頭を振った。


(続く)





2019年3月3日日曜日

住込み浪人[その14]







「君いー、悪いんだけど、先に進んでくれない」

男子学生の声に、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、我に返り、閉じていた目を開けた。

「あ、すみません」

OK牧場大学の学生食堂にいたのだ。トレイを持って、カレーのカウンターの列に並んでいたが、前夜の『カッパヌードル』のことを思い出している内に、列が進み、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年とその前の学生との間が空いていたのだ。

「ふん!『住込み浪人』か」

男子学生は、ジャージを着ているように見えた男を『住込み浪人』と看破していた。

「だせーなあ」

OK牧場大学の学生で、大学構内にジャージ姿でいる者なんていないのだ。それで、『住込み浪人』と判断したのであろうが、結果は正しかったが、ジャージを着ているように見えた男が着ていたのが、実はパジャマであることまでは分らなかったようだ。

「(昨夜、『カッパヌードル』を食べた後、『歌のベスト・エイト』を見ながら、寝ちゃったからなあ)」

『カッパヌードル』は、美味しいが、いくら美味しくとも、それだけでは夕食としては量が足りない。普段は、受験勉強をしながら、お菓子を食べて、空腹を満たしているが、昨夜は、迂闊にもテレビを見ながら、寝てしまったのだ。

「(『歌のベスト・エイト』に、あの娘が、出ていたのがいけないんだ)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年に耳には、再び、

「す、きーなあ、ヒトにぃ…」

という、ある女性アイドル歌手の唄声が響いた。

「(それで、ついつい一人で『作業』をしてしまって、疲れちゃっんだ)」



『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の眼には、またもや、女性アイドル歌手のミニ・スカートから出たムチッとした太腿が、VRを見るように映っていた。


(続く)



2019年3月2日土曜日

住込み浪人[その13]







「ググーッ」

OK牧場大学の学生食堂に入ると、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年のお腹が鳴った。

「(昨夜7時頃、『カッパヌードル』を食べたきりだものなあ)」

3年前に発売されたカップ麺『カッパヌードル』は、『住込み浪人』にとっては有難い食品であった。

「(調理しなくていいから楽でいい)」

『カッパヌードル』は、カップの蓋をカパッと剥がして(そのカパッと剥がすことから、『カッパヌードルと名付けたらしい)、お湯を注ぎ、3分10秒で出来上がるのだ。



「(しかも美味い!)」

醤油味が、幾度食べても飽きない。週に5-6回は食べている。

「(3分10秒という待ち時間も絶妙だ。出来上がるのが待ち遠しいが、待ちきれない時間でもない。そうだ、『ユルトラ・エイト』が地球で活躍できるのも、3分10秒だ)」

『ユルトラ・エイト』は、流行りの子供向け特撮テレビ・ドラマのヒーローである。『エイト』は、『8』を横にすると『∞(無限)』になることから、無限な存在、或いは、無限に強い、を意味させて名付けられたとも噂されていた。

「(昨夜も、モロダシ・ジャンが、『ユルトラ・エイト』に変身した時に、『カッパヌードル』にお湯を注ぎ、怪獣を退治し終え、変身から3分10秒経った時に、『カッパヌードル』の蓋を取ったのだ。ああ、その時の醤油味の香りがいいのだ)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、まぶたを閉じ、何か匂いを嗅ぐように鼻腔を広げ、首を少しく左右に振った。


(続く)




2019年3月1日金曜日

住込み浪人[その12]







「綺麗だった…..ああ、あれが女子大生というものか….」

OK牧場大学の学生食堂のある棟に向いながら、『住込み浪人』で、まだ女子大生なる存在と交わることのないビエール・トンミー青年は、呟いた。

「い、いや、違う!あの女子大生のせいではないんだ……」

と、誰にも聞こえぬよう云いながら、その女子大生に指摘された体のある部分を抑えた。

「す、きーなあ、ヒトにぃ…」

頭の中に、ある女性アイドル歌手の唄声が響いた。

「ああ、『星に願い』は叶うのか…..今度こそ」


今度こそ、ハンカチ大学に合格したく、それが叶うなら、星にでも、石にでも願いをかけたかったのだ。

だが…..

「う、うーっ!」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の眼には、OK牧場大学の校庭は映らず、女性アイドル歌手のミニ・スカートから出たムチッとした太腿が、VRを見るように映っていたのだ。

「受験だ。試験があるのだ。今度こそ、受からないといけないんだ!」

しかし、女性アイドル歌手が、唄いながら、腰を振る度に、眼の前でミニ・スカートがひらめく。

「う、うーっ!」

呻きながら、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、異様な程に両脚を内股にして、学生食堂のある棟に駆け込んで行った。


(続く)