2018年6月28日木曜日

【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その133]



「エヴァさん、曲がれるよね?」

列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、リフトの上って行く先を見た。1982年の冬、そこは、草津のスキー場であった。会社の同期の皆でスキーをしに来ていた。

「(『曲がっている』ぞ!)」

リフトの上って行ったその先は、そう、カーブしていた。

「(『曲がれない』と、どうなるのだ?)」

と、顔を歪め、美貌を損ねたが、損なわれていない知性が想像した。

「(あのカーブしているところで『曲がらない』と、山から飛び出すではないか!)」

エヴァンジェリスト氏は、スキーを付けたまま山から飛び出す自分の姿を想像した。

「(いや、違う!)」

何が違うと云うのだ。

「(怖くなんかない。違うぞ、違うんだあ)」

列のすぐ前にいた女性が、もう一度、尋ねた。

「エヴァさん、曲がれるよね?」






「は!?......いや…..」

曖昧に返事した。

「あ、そうかあ。そうなんだあ…..」

何も回答していないのに、列のすぐ前にいた女性は、1人納得し、また前を向いた。

「(いや、違うんだ!)」

列のすぐ前にいた女性の背中に、必死に眼で訴えた。

「(違うんだ!怖くなんかないんだ!)」



心中の思いを声として出すと、真意は、言葉とは真逆であることを証明してしまうことは分っていた。

「(ボ,ボクは、『曲がったことが嫌いな男』なんだ。スキーで『曲がる』なんてことはできないんだ!)」

そうだ、エヴァンジェリスト氏は、『曲がったことが嫌いな男』であった。それは事実であった。

「(だから、だから…….『曲がったことが嫌いな男』だから……)」

と、誰に対するものか分らぬ言い訳をして、エヴァンジェリスト氏は、列を離れた。


(続く)



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