2018年6月21日木曜日

【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その126]



「エヴァさん、曲がれるよね?」

列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、友人のビエール・トンミー氏が、59歳で仕事を完全リタイアした後、自分の関心に『真っ直ぐに』母校のオープン・カレッジで西洋美術史の勉強を始めるようになることを、まだ知らなかった。


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会社の同期の皆でスキーをしに来た1982年の冬、草津のスキー場で、エヴァンジェリスト氏はいい気になっていた。

エヴァンジェリスト氏にとって、人生初のスキーであった。

スキー場に着いた当初こそ、

「(いいのか、貧乏人の小倅のボクが…..)」

と、金持ちのするスポーツであるスキーをすることに躊躇を見せていた。

しかし、初心者コースで、スキーの基本であるボーゲンを教えてくれた同期のオン・ゾーシ氏に

「いいね、いいね。エヴァさん、上手いよ」

と、おだてにられ、いい気になってしまった。

「(んん?....いいか、そうか、上手いのか!)」
「(若大将みたいだろうか?)」
「(んん?そう云えば、石原裕次郎もスキーが上手かったのではなかったかな?)」
「(どっちに見える?若大将か?裕次郎か?)」

エヴァンジェリスト氏は、分っていなかった。ボーゲンで、なだらかな初心者コースを屁っ放り腰で『滑降』する姿は、若大将でもなく、裕次郎でもなく、吉本新喜劇のビッグ・スター『岡八郎』のようであったのだ。

舞台で、両手を前に突き出し、腰を大きく後ろに引いた、『キックの鬼』こと、『岡八郎』そのままの姿で『滑降』する姿は、決して『格好』いいものでないことに気付いていなかった。






姿形は『岡八郎』だが、心は『若大将』か『裕次郎』のエヴァンジェリスト氏は、自身が『滑降』している場所が、ゲレンデと云うよりも平地に近いことを忘れ、妄想の世界に入っていた。

「(自分が、こんなにスキーが上手いとは思っていなかった)」

オン・ゾーシ氏の罪は重い。

「(映画関係者がいたらどうしよう?)」


そこには、映画関係者はいなかったであろうし、いたとしてもそれがなんだと云うのか。

「(入社したばかりだからなあ)」

だったら、もっと真面目に仕事をしろ。テニス・ラケットも持っていないのに、女の子目当てにテニス部に入り、

「いくわよお~!」

なんて、巫山戯たことを云うのではない。

「(東宝がいいのか?石原プロがいいのか?)」



(続く)



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