「エヴァさん、曲がれるよね?」
列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、芸能界やスポーツ界のことに一切興味がない友人(ビエール・トンミー氏)が一切、芸能界やスポーツ界のニュースを見ようとしないのは残念だが、友人もある意味で『曲がったことが嫌いな男』なんだなあ、と思った。
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1981年の夏、軽井沢での、会社のテニス部にの夏合宿でのことである。
新入社員のエヴァンジェリスト氏は、冬でも半袖の服を着る、元気溌剌なテニス部の部長であるハンソデ先輩に痛いところを突かれた。
「なんで、テニス部に入ったんだ?」
「ああ、テニスもしてみたくなりまして」
「じゃ、どうしてラケット持ってないんだ?」
「はっ!?」
エヴァンジェリスト氏は動揺したが、ハンソデ先輩は、別のコートに呼ばれ、その場を去った。
難を逃れたエヴァンジェリスト氏であったが、ハンソデ先輩の声が、頭の中でリフレインする。
「じゃ、なんでテニス部に入ったんだ?」
「(だって……野球部は、男ばかりの世界だし.....)」
心の中で言い訳しながらも、エヴァンジェリスト氏の目は、コートの中やコートの側で揺れる白い物に囚われていた。
「(んっ……)」
唾を飲み込む。
エヴァンジェリスト氏は、白い物が『スコート』と呼ばれるものであることは知らなかった。女性用のテニスウエアである。エヴァンジェリスト氏にとって、それはただ、艶めかしいミニ・スカートであった。
「(んっ……)」
また、唾を飲み込む。
「じゃ、なんでテニス部に入ったんだ?」
「(だって……野球部には、男しかいない。一人だけ、マネージャー的な存在の可愛い娘がいるにはいたが.....)」
『スコート』と呼ばれるものであることは知らなかったし、知っていたとしても、そんな名前なんぞ、どうでもよかった。大事なのは、そこから剥き出された脚であった。
「じゃ、なんでテニス部に入ったんだ?」
「(だって……野球部のマネージャー的な存在の可愛い娘が、練習の後に、自分が飲みかけの瓶のジュースを『飲む?』と回してくるのが、『(間接キスだ)』と楽しみではあったが....)」
『スコート』から剥き出された脚は、コートでは左右、縦横に駆け回る。
オフィスではそこまで剥き出された状態で見ることのできない女性社員達の脚は、その時、天空に輝いていた真夏の太陽よりも、眩しかった。
(続く)
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