2018年6月5日火曜日

【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その110]



「エヴァさん、曲がれるよね?」

列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、『曲がったこと』を許さないはずの検察も、実は為政者に逆らったことはしないものだ、ということを知っていた。


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エヴァンジェリスト家は、貧困家庭ではなかったが、決して裕福な家庭ではなかった。

そんなエヴァンジェリスト家の三男にとって、テニスは金持ちのするスポーツという認識であった。

「(ボクがテニスをしていいのか?)」

そう自問しながらも、エヴァンジェリスト氏は、会社のテニス部に入り、1981年の夏、テニス部の合宿で、軽井沢にいた。

「(しかし、テニス部には女の子が多い。だから、ボクはテニス部に入った….)」

テニス部の女子達は、何やら白いミニスカートを履き、脚を剥き出しにすることも知っていた。

軽井沢のテニスコートに立った時も、

「(貧乏人のボクが、金持ちのスポーツ、テニスをしていいのか?)」

と、未だ躊躇するところはあった。それは、卑屈な感情ではなく、嫌悪感であった。貧乏人は、金持ちを嫌悪するのだ。

だが、女の子たちの『スコート』と、そこから剥き出しの脚にエヴァンジェリスト氏の股間は、『反応した』ままとなっていた。

そして更に、そこが金持ちの来る場所、軽井沢であることに、エヴァンジェリスト氏はえも言えぬ高揚感を覚えた。

「(ボクは、今、テニスをする。それも軽井沢で、だ)」

それは、嫌悪感と高揚感の入り混じった不思議な感情であった。

そんなアンチノミーな感覚の中で、エヴァンジェリスト氏は、右手にラケットを持ち、そして、左手にテニス・ボールを取った。






「ポーン!」

と音がした訳ではないが、エヴァンジェリスト氏は、左手に持ったテニス・ボールを上空に投げ上げた。

その瞬間である。

「いくわよお~!」

エヴァンジェリスト氏は突然、奇声を発した。



ドヨメキが起きた。

「ん、ぷっ…….!」

次いで、エヴァンジェリスト氏の立つコートの周囲で、哄笑が渦巻いた。

周囲の反応に満悦のエヴァンジェリスト氏は、右手に持ったラケットを後ろに引き、合せて上体を反らし、続けて、引いたラケットを振り上げ、上空から落ちて来るボールを叩いた。

「ぷっ、ふぁ~」

大受けであった。エヴァンジェリスト氏の打ったボールは、大ファウルであったのだ。

頭を掻きながらも、エヴァンジェリスト氏は、内心で北叟笑んだ。

「(よし、もう一丁!)」

再び、テニスボールを手にし、それを上空に投げ上げる。

「いくわよお~!」

もう意外性はなかったが、

「ん、もう……!」

呆れながらも、コートの周囲は笑みに包まれた。女性部員たちも顔が綻んでいた。


(続く)



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