「エヴァさん、曲がれるよね?」
列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、官僚が為政者の為に国会で嘘をつくという『曲がったこと』をする場合、その官僚に子どもがいるとしたら、子どもは親のことをどう思うだろうか、と思うようになることをまだ知らなかった。
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1982年の冬、会社の同期の皆でスキーに行くことなった。
しかし、バスでスキー場に向かう皆とは別に、エヴァンジェリスト氏は、同期の1人であるオン・ゾーシ氏の運転するセダンに乗って、スキー場に向った。
セダンの前方席には、運転するオン・ゾーシ氏とその恋人のニキ・ウエ子さんがいた。
2人は付合っていたが、会社の連中には内緒にしていた。2人はクルマで行きたかった。そこで、カモフラージュの為に、調子者だが意外に口が固く信頼の置けるエヴァンジェリスト氏に同乗を依頼したのである。
しかし、
『キュ、キュ、キューッ!』
オン・ゾーシ氏の運転するセダンは、軽井沢の凍結した坂道を登りきれず、急ブレーキをかけた。
「ごめんね、エヴァさん」
オン・ゾーシ氏が、エヴァンジェリスト氏に詫びた。
「軽井沢のここを通った方が早いんだけど、別の道、行くね」
しかし、別の道でも、
『キュ、キュ、キューッ!』
と、オンゾーシ氏は、セダンのブレーキを踏んだ。別の道も凍結しており、ちょっとだがスリップしたのだ。
「ごめんね、エヴァさん」
オンゾーシ氏は再び、詫びた。
「ああ、大丈夫だあ…….(いや、むしろ助かった)」
前年(1981年)の夏、会社のテニス部の合宿で、サーブを打つ際に、
「いくわよお~!」
と巫山戯ていたところ、テニス部の部長であるハンソデ先輩に叱られたことを夢の中で想い出していたのだ。
「回り道だし、凍結しているから時間かかっちゃってごめんね、エヴァさん」
振り向いてそう云ったオンゾーシ氏を顔を見た瞬間、怖いハンソデ先輩を前に縮み上がっていた股間が再び、ピンと『硬直』した。
オンゾーシ氏の頬、というか、口の端にピンクなものを見たのだ。
「(……)」
「エヴァさん、寝ていていいからね」
ニキ・ウエ子さんも振り向いて、声を掛けてきた。
「(やっぱり……)」
エヴァンジェリスト氏は、ニキ・ウエ子さんの唇を見た。
「(そりゃ、寝ていた方がいいよね……)」
ニキ・ウエ子さんの口紅は、ピンクであった。
閉じたエヴァンジェリスト氏の目に、オンゾーシ氏の頬とニキ・ウエ子さんの唇とが重なる。
「(いつかボクも…….!)」
睡魔に勝てないエヴァンジェリスト氏は、また直ぐに体を後方席に横たえたが、股間だけは起き続けていた。
そして、…………….
「着いたよ、エヴァさん」
セダンは到着したのだ。そこは、草津であった。
「草津よいとーこ、いちどーわあ、おいでえ」
エヴァンジェリスト氏の頭の中に勝手に草津節が流れた。
「だいぶ遅れちゃって、ごめんね」
午前10時は過ぎていた。
「ボクが、最初教えるからね」
オンゾーシ氏は、スキーのベテランであった。
「(君は、恋愛もベテランのようだね)」
(続く)
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