「エヴァさん、曲がれるよね?」
列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、某国では、公務員が合理性なく、国有地を8億円値引きという格安で払い下げても、罪に問われないことを、まだ知らなかった。
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「(んっ……)」
唾を飲み込む。
エヴァンジェリスト氏の目は、女性部員達の『スコート』を、『アンダー・スコート』を、そして、そこから剥き出された脚を追う。
1981年の夏、エヴァンジェリスト氏は、会社のテニス部の合宿で、軽井沢にいた。
ラケットも持っていないのに、テニス部に入り、合宿にまで参加したエヴァンジェリスト氏に、テニス部部長のハンソデ先輩は、詰問した。
「なんで、テニス部に入ったんだ?」
「(だって……オン・ゾーシ君に誘われたんだ.....)」
心の中でそう言い訳しながらも、エヴァンジェリスト氏は知っていた。自分が嘘はついてはいないものの、本当のことを云ってはいないことを。
「(そう、ボクがテニス部に入ったのは、女の子が多いからなのだ)」
股間を抑えながら、『懺悔』する。…….が、
「(んっ……)」
また、唾を飲み込む。
「エヴァさんの番よ」
と、云われ、エヴァンジェリスト氏は、コートに立った。まだ試合ではない。相手を置いての練習だ。ラケットは、オン・ゾーシ氏に借りた。
エヴァンジェリスト家は、貧困家庭ではなかったが、決して裕福な家庭ではなかった。
そんなエヴァンジェリスト家の三男にとって、テニスは金持ちのするスポーツ、という認識であった。
「(ボクがテニスをしていいのか?)」
そう自問した。オン・ゾーシ氏にテニス部入りを誘われた時、躊躇はあった。
しかし、若きエヴァンジェリスト氏は、『本能』に負けた。
「(曲がったことをしてしまった)」
という自覚はあったが、テニス部には女の子が多いことを知っていた。
そして、テニス部の女子達は、何やら白いミニスカートを履き、脚を剥き出しにすることも知っていたのだ。
軽井沢のテニスコートに立った時も、
「(貧乏人のボクが、金持ちのスポーツ、テニスをしていいのか?)」
と、未だ躊躇するところはあった。それは、卑屈な感情ではなく、嫌悪感であった。貧乏人は、金持ちを嫌悪するのだ。
その嫌悪すべき対象の側に自分が立っていることに罪悪感があった。
だが、『スコート』と、そこから剥き出しの脚にエヴァンジェリスト氏の股間は、『反応した』ままとなっていた。
そして更に、そこが軽井沢であることに、エヴァンジェリスト氏はえも言えぬ高揚感を覚えた。
「(ボクは、今、テニスをする。それも軽井沢で、だ)」
金持ちスポーツのテニスを、金持ちの来る場所、軽井沢でするのだ。
「(このボクが!)」
それは、嫌悪感と高揚感の入り混じった不思議な感情であった。
そんなアンチノミーな感覚の中で、エヴァンジェリスト氏は、右手にラケットを持ち、そして、左手にテニス・ボールを取った。
(続く)
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