2018年6月27日水曜日

【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その132]



「エヴァさん、曲がれるよね?」

列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、固った。

「(『曲がれる』?『曲がる』?....どういうことだ?)」

リフトの上って行く先を見た。そこは、草津のスキー場であった。

「(山だ!)」

当り前である。スキー場なんだから、山である。若きエヴァンジェリスト氏は、1982年の冬、会社の同期の皆でスキーをしに来ていたのだ。

「(しかも、『曲がっている』ぞ!)」

リフトの上って行ったその先は、そう、カーブしていた。

「(『曲がれない』とどうなるのだ?)」

と、顔を歪め、美貌を損ねたが、損なわれていない知性が想像した。

「(まさか!まさか、『曲がれない』と…..)」






「(あのカーブしているところで『曲がらない』と、山から飛び出すではないか!)」

エヴァンジェリスト氏は、スキーを付けたまま山から飛び出す自分の姿を想像した。


「(うっ……….)」

慄いた。

「(いや、違う!)」

何が違うと云うのだ。

「(怖くなんかない。違うぞ、違うんだあ)」

エヴァンジェリスト氏の眼には、現実界は何も映っていない。

「エヴァさん、曲がれるよね?」

列のすぐ前にいた女性が、もう一度、尋ねた。


(続く)




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