2018年6月29日金曜日

【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その134]



「エヴァさん、曲がれるよね?」

リフトに乗る列のすぐ前にいた女性が、もう一度、尋ねた。

「は!?......いや…..」

1982年の冬、エヴァンジェリスト氏は、会社の同期の皆で草津のスキー場にスキーをしに来ていた

「あ、そうかあ。そうなんだあ…..」
「(いや、違うんだ!)」

列のすぐ前にいた女性の背中に、必死に眼で訴えた。

「(ボ,ボクは、『曲がったことが嫌いな男』なんだ。スキーで『曲がる』なんてことはできないんだ!)」

そうだ、エヴァンジェリスト氏は、『曲がったことが嫌いな男』であった。それは事実であった。

「(だから、だから…….『曲がったことが嫌いな男』だから……)」

と、誰に対するものか分らぬ言い訳をして、エヴァンジェリスト氏は、列を離れた。






「(そりゃ、そうよね)」

『ウエ』の方に行くリフトに乗る列から、エヴァンジェリスト氏が、密やかに離れて行った時、氏の前にいた女性は、目の片隅で、その姿を一瞥した。

「(ボクは、『曲がったことが嫌いな男』なんだ)」

列から離れて行きながら、まだ言い訳をしていた。

「(でも、あのカーブを『曲がらなかったら』、山から飛び出してしまうんだ)」

どこに行けばいいのか、分らなかった。

「(スキーのジャンプはまだ練習していないんだ)」

先ずは、ロッヂ方面に行くしかなかった。

「(どうするのだ……何をするのだ……..)」

ロッヂ前に立ち、リフトに乗る列に並ぶ会社の同期連中を見遣った。彼らはもう、別世界の人間であった。

「(ボクはやはり所詮、貧乏人の小倅なのか)」



眼前のゲレンデがスクリーンとなり、そこに広島のキリンビアホールのテーブルを囲む家族の姿が映った。


(続く)




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