(夜のセイフク[その23]の続き)
「ちっ!」
ビエール・トンミー君は、舌打ちをした。
1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室である(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)。昼休みであった。
ちぎったノートのページをホッチキス止めした冊子『何会』を、軽くではあったが、自身の机の上に叩きつけると、ビエール・トンミー君は、呟いた。
「正気か?」
冊子『何会』の表紙の『何会』という金釘流の手書きの文字が、笑って、こちらを馬鹿にしているように見えた。
「(揶揄っているのか?)」
冊子『何会』の巻頭の文章『月にうさぎがいた』は、文字通り、月にうさぎがいた、という読み物であった。
「(くだらん!....ああ、実にくだらん!)」
宇宙船が月に着陸をし、宇宙飛行士が、月面に降り立ったところ、月にうさを発見するという話である。
「(アポロ11号に影響を受けたんだろうが….)」
前年(1969年)のアポロ11号による人類初の月面着陸から発想を得たことは明らかであったし、それ自体は構わなかた。
「(しかし、月にうさぎがいた、なんて、そんな子ども騙しにもならない話を平気で書くなんて……)」
月にうさぎを発見した宇宙飛行士は、地球の司令部にその報告をし、地球上が、そのニュースで持ちっきりとなるのだ。
「(しかも、そのうさぎを…..)」
そう、宇宙飛行士は、発見したうさぎを捕獲し、地球に連れ帰るのだ。
「(ああ、もし本当にそうだったら…..)
(続く)
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