2018年8月11日土曜日

夜のセイフク[その33]






冊子『何会』に『月にうさぎがいた』が掲載されてから、およそ2週間経ったある日、ミージュ・クージ君は、囚われていた。

「(ミージュ君も、囚われてしまうのだろうか?)」

というビエール・トンミー君の懸念の通り、ではなかったが、ミージュ・クージ君は、エヴァンジェリスト君に囚われていた。

1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室である(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)。昼休みであった。

「いて!....いててててーっ!」

背後からエヴァンジェリスト君に巻き付かれたようになり、体を斜めに傾け、顔も苦痛に歪め、声を上げた。

「ギブアップ?」

エヴァンジェリスト君が、訊いた。

「い…..い…..いーててて!」

ミージュ・クージ君は、痛くて、ギブアップもできないでいた。それほどに、エヴァンジェリスト君の『コブラ・ツイスト』は強烈であったのだ。

「ギブアップ?」

ミージュ・クージ君は、大のプロレス好きのエヴァンジェリスト君のコブラ・ツイストに囚われていたのだ。



「(エヴァ君の頭の中は、いや、心の中は、どうなっているのだ?)」

ビエール・トンミー君は、手書きで『第2号』とある、ちぎったノートのページをホッチキス止めした冊子のようなものに眼を落としていた。


(続く)




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