(夜のセイフク[その32]の続き)
冊子『何会』に『月にうさぎがいた』が掲載されてから、およそ2週間経ったある日、ミージュ・クージ君は、囚われていた。
「(ミージュ君も、囚われてしまうのだろうか?)」
というビエール・トンミー君の懸念の通り、ではなかったが、ミージュ・クージ君は、エヴァンジェリスト君に囚われていた。
1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室である(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)。昼休みであった。
「いて!....いててててーっ!」
背後からエヴァンジェリスト君に巻き付かれたようになり、体を斜めに傾け、顔も苦痛に歪め、声を上げた。
「ギブアップ?」
エヴァンジェリスト君が、訊いた。
「い…..い…..いーててて!」
ミージュ・クージ君は、痛くて、ギブアップもできないでいた。それほどに、エヴァンジェリスト君の『コブラ・ツイスト』は強烈であったのだ。
「ギブアップ?」
ミージュ・クージ君は、大のプロレス好きのエヴァンジェリスト君のコブラ・ツイストに囚われていたのだ。
「(エヴァ君の頭の中は、いや、心の中は、どうなっているのだ?)」
ビエール・トンミー君は、手書きで『第2号』とある、ちぎったノートのページをホッチキス止めした冊子のようなものに眼を落としていた。
(続く)
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