2018年8月9日木曜日

夜のセイフク[その31]





冊子『何会』の巻頭の読み物『月にウサギがいた』は、余りにもくだらなかった。

「(そうだ、くだらん!本当に、くだらん!)」

『月にウサギがいた』を読まされた時、ビエール・トンミー君は、その内容の余りのくだらなさに憤りしか感じなかった。

「(タイトルからして巫山戯ているが、内容は更に酷い)」

月にいたうさぎを連れ帰った宇宙飛行士が、うさぎと共に、会見に臨むのだ。


「(くだらんにもほどがある)」

しかし、不覚にも思ってしまったのだ。

「(アメリカ館に展示されていたのが、『石』ではなく、『うさぎ』だったら…..)」

その年(1970年)、両親と共に行った大阪万国博覧会で見た『月の石』のことである。『月の石』は、ただ石にすぎず、詰まらないものだった。『月の石』よりも『月のうさぎ』の方が、面白かったであろう。

「(エヴァ君ともあろう男が…..)」

そうなのだ。エヴァンジェリスト君は、ただ凡庸な高校1年生ではない。エヴァンジェリスト君は、容姿も知力も、ビエール・トンミー君の『敵』とまではいかないとはいえ、『相当』な存在であるのだ。

「(そうだ、エヴァ君ともあろう男が…..)」

美少年ビエール・トンミー君は、悠然と自分の許を離れていくもう一人の美少年の背中を見ながら、思った。

1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室である(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)。昼休みであった。



(続く)



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