(夜のセイフク[その30]の続き)
冊子『何会』の巻頭の読み物『月にウサギがいた』は、余りにもくだらなかった。
「(そうだ、くだらん!本当に、くだらん!)」
『月にウサギがいた』を読まされた時、ビエール・トンミー君は、その内容の余りのくだらなさに憤りしか感じなかった。
「(タイトルからして巫山戯ているが、内容は更に酷い)」
月にいたうさぎを連れ帰った宇宙飛行士が、うさぎと共に、会見に臨むのだ。
「(くだらんにもほどがある)」
しかし、不覚にも思ってしまったのだ。
「(アメリカ館に展示されていたのが、『石』ではなく、『うさぎ』だったら…..)」
その年(1970年)、両親と共に行った大阪万国博覧会で見た『月の石』のことである。『月の石』は、ただ石にすぎず、詰まらないものだった。『月の石』よりも『月のうさぎ』の方が、面白かったであろう。
「(エヴァ君ともあろう男が…..)」
そうなのだ。エヴァンジェリスト君は、ただ凡庸な高校1年生ではない。エヴァンジェリスト君は、容姿も知力も、ビエール・トンミー君の『敵』とまではいかないとはいえ、『相当』な存在であるのだ。
「(そうだ、エヴァ君ともあろう男が…..)」
美少年ビエール・トンミー君は、悠然と自分の許を離れていくもう一人の美少年の背中を見ながら、思った。
1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室である(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)。昼休みであった。
(続く)
0 件のコメント:
コメントを投稿