(夜のセイフク[その25]の続き)
「(『石』はつまらなかった…..)」
誰にも云っていなかったが、それがビエール・トンミー君の本音であった。
「(『石』は、石に過ぎなかった)」
大阪万博に連れて行ってくれた両親すまなかったし、2-3時間待ってようやく『月の石』を見た誰もが、
「すごーい!」
と云っているのだ。自分だけが、
「何、これ?石じゃん。ただの石じゃん」
とは云えなかった。だから、
「すごいねえ。これが、月にあったんだね」
と優等生な感想を述べてしまったのだ。
「(だけど、アメリカ館に展示されていたのが、『石』ではなく….)」
『月にうさぎがいた』なる読み物が掲載された冊子『何会』の表紙を見ながら、ビエール・トンミー君は、大阪万博のアメリカ館を思い出していた。
1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室である(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)。昼休みであった。
「(アメリカ館に展示されていたのが、『石』ではなく、『うさぎ』だったら…..)」
ビエール・トンミー君の思考は、何か魔術にかけられたかようになっていた。
(続く)
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