(夜のセイフク[その47]の続き)
「い、い、いや、なんでもない….」
隣席の女子生徒の質問に、ビエール・トンミー君は、また、動揺を隠せぬまま答えた。
「ミージュ君、て云うた?」
「いや…..」
「ミージュ君がどしたん?」
「いや…..」
「ミージュ君が、比婆山に行くん?」
「ああ……いや、ミュージックって….」
「ミュージックって?フォーク?ウチ、『白いブランコ』が好きい!」
「ああ、『白いブランコ』ね」
「ビエ君も、『白いブランコ』好きなん?ウチら気が合うかもしれんね。うふっ」
と云うと、隣席の女子生徒は、勝手に照れて顔を背け、ビエール・トンミー君に話し掛けるのを止めた。
1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室である(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)。昼休みであった。
「(驚いた!..ふうう…)」
窮地を脱したビエール・トンミー君は、口の中でため息をついた。
「(『ミージュ君が、比婆山に行くん?』って、知っているのかと思った)」
そうなのである。冊子『東大』の創刊号の巻頭読み物として掲載された『ミージュ・クージ vs ヒーバー』では、謎の怪獣『ヒーバー』退治に、『ミージュ・クージ 』が乗り出すとろで終っていたのだ。
「(しかし、それにしてもケシカラン!)」
(続く)
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