(夜のセイフク[その46]の続き)
「(くだらん!実にくだらん!..ちっ!)」
ビエール・トンミー君は、口の中で唾を吐き捨てた。
ちぎったノートのページをホッチキス止めした冊子『東大』の創刊号の巻頭読み物として掲載された『ミージュ・クージ vs ヒーバー』のことである。
「(『ヒーバー』って、比婆山にいるらしい謎の怪獣だって!?それって、『ヒバゴン』と同じじゃないか!)」
その時、ビエール・トンミー君は、『ヒバゴン』のことはまだよく知らなかった。
しかし、冊子『東大』を開いて、『ヒーバー』と小声で呟いたことで、輪生の女子生徒から、比婆山に『ヒバゴン』という幻の怪獣がいると云われているらしいことを知ったばかりであった。
『ミージュ・クージ vs ヒーバー』の『ヒーバー』は、『ヒバゴン』の名前を変えただけのものとしか思えなかった。
「(エヴァ君ともあろう者がパクリか!それにしてもくだらん!..ちっ!)」
ビエール・トンミー君は、再び、口の中で唾を吐き捨てた。
『ヒーバー』が、『ヒバゴン』の名前を変えただけのものとしか思えないだけではなく、街(広島市)を襲ってくる、という話になっているのだ。
『ヒーバー』にしろ、『ヒバゴン』にしろ、どんな怪獣か知らないが、それまで比婆山で暮らしていたであろうに、何故、今、街(広島市)を襲ってくるのか、何の解説もないのだ。
「(全くくだらん!..ちっ!)」
ビエール・トンミー君は、三度、口の中で唾を吐き捨てた。そして…..
「それにだ、どうして、ミージュ君なんだ?!」
と、思わず、声を出してしまった。
1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室である(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)。昼休みであった。
「なんか云うたあ?」
また、隣席の女子生徒が問い掛けて来た。
(続く)
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