(夜のセイフク[その45]の続き)
隣席の女子生徒が、自分に関心を払うことがなくなったので、ビエール・トンミー君は、英語の教科書の下に隠した冊子『東大』を再び、手に取った。
1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室である(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)。昼休みであった。
「(『vs』って何だ?)」
最初の読み物『ミージュ・クージ vs ヒーバー』のタイトルには、『vs』という見たことのない文字があった。
プロレス好きのエヴァンジェリスト君は、愛読するプロレス雑誌『ゴング』(当時は、月刊であった)でよく使われる『vs』という言葉を使ったのだ。
今では(2018年の今である)、『vs』という言葉は一般にもよく使用されるが、当時はプロレス等の格闘技の紙誌でしか使われていない言葉であった。
いくら秀才とはいえ、プロレスには一切興味のないビエール・トンミー君が知るはずもない言葉であった。
「(なんだ、『対』ってことか)」
しかし、エヴァンジェリスト君は、ちゃんと『vs』の下に、『対』と訳をつけてくれていた。
要するに、『ミージュ・クージ vs ヒーバー』とは、『ミージュ・クージ 対 ヒーバー』ということであったのだ。
「(さすがは、エヴァ君だ)」
買い被っていた、とがっかりさせられた友人ではあったが、ビエール・トンミー君は、自分の知らない英語(『vs』)を使い、しかも、その訳をちゃんとつけていることについては、エヴァンジェリスト君を評価せざるを得なかった。
しかし、……..
「(なんだ……そういうことか…….)」
(続く)
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