2018年8月24日金曜日

夜のセイフク[その45]





「うう……っ…….」

ビエール・トンミー君は、歯軋りをした。

「ビエ君いうたら、ヒバゴン、知らんのんじゃと」

自分よりはるかに学力の劣る生徒から、それも女子生徒から、馬鹿にされたのだ。

1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室である(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)。昼休みであった。

「ヒバゴンって、イザナミの……..」

ビエール・トンミー君は、反駁を試みたが……

「はあ?何、云うとるん?」
「比婆山はイザナミノミコト葬られたところ…….」


広島県の庄原にある比婆山は、イザナミノミコト葬られた場所と云われているのは確かなのだ。

「怪獣じゃあないねえ」
「怪獣?」
「幻の怪獣よねえ」

その年(1970年)の7月20日、3日と続けて、比婆山で類人猿のような未確認動物が目撃されたのだ。

「みんな、ヒバゴン知っとるのに、ビエ君、知らんのん?」

その未確認動物は、『比婆山』で発見されたことから『ヒバゴン』と名付けられたことをビエール・トンミー君は、知らなかったのだ。

「ああ、そのヒバゴンかあ…..」

ビエール・トンミー君は、その場を取り繕う言葉を発した。

「ほうよねえ。ほいじゃけど、『その』も何も、他にヒバゴンはおらんよ」

ビエール・トンミー君は、取り敢えず、窮地を脱した。


(続く)


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