(夜のセイフク[その44]の続き)
「うう……っ…….」
ビエール・トンミー君は、歯軋りをした。
「ビエ君いうたら、ヒバゴン、知らんのんじゃと」
自分よりはるかに学力の劣る生徒から、それも女子生徒から、馬鹿にされたのだ。
1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室である(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)。昼休みであった。
「ヒバゴンって、イザナミの……..」
ビエール・トンミー君は、反駁を試みたが……
「はあ?何、云うとるん?」
「比婆山は、イザナミノミコトが葬られたところ…….」
広島県の庄原にある比婆山は、イザナミノミコトが葬られた場所と云われているのは確かなのだ。
「怪獣じゃあないねえ」
「怪獣?」
「幻の怪獣よねえ」
その年(1970年)の7月20日、3日と続けて、比婆山で類人猿のような未確認動物が目撃されたのだ。
「みんな、ヒバゴン知っとるのに、ビエ君、知らんのん?」
その未確認動物は、『比婆山』で発見されたことから『ヒバゴン』と名付けられたことをビエール・トンミー君は、知らなかったのだ。
「ああ、そのヒバゴンかあ…..」
ビエール・トンミー君は、その場を取り繕う言葉を発した。
「ほうよねえ。ほいじゃけど、『その』も何も、他にヒバゴンはおらんよ」
ビエール・トンミー君は、取り敢えず、窮地を脱した。
(続く)
0 件のコメント:
コメントを投稿