(夜のセイフク[その29]の続き)
「(『月にうさぎがいた』を書いたのは、ボクじゃあないが、みんな、分ってないんだ、『月にうさぎがいた』の意味を……)」
自身の心の中で、不要な弁解をそこまでした時、ビエール・トンミー君は、言葉を止めた。
「(………)」
1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室である(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)。昼休みであった。
「(何なんだ?!ボクは、何を云おうとしていたんだ?『月にうさぎがいた』の意味だなんて)」
その時、ビエール・トンミー君の席に影がかかって来た。
「あれ、家に持って帰っていいんだからね」
エヴァンジェリスト君であった。
「あ、『何会』….」
「家でゆっくり読めばいいさ」
「いや、もう…..」
「読んだら、次は、ミージュ君に回してね」
云いたいことだけ云うと、エヴァンジェリスト君は立ち去って行った。
「(ボクは、どうしてエヴァ君を庇おうとしたのだろう?いや、何故、『月にうさぎがいた』を庇おうとしたのだろう?)」
美少年ビエール・トンミー君は、呆然ともう一人の美少年を見送った。
「(な、な、何なのだろう、『月にうさぎがいた』の意味は?)」
(続く)
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