(夜のセイフク[その27]の続き)
「何なん、これえ?」
女子生徒は、ビエール・トンミー君の机の上の冊子といえば聞こえはいいが、ちぎったノートのページをホッチキス止めしたものを手にした。
「いや、それは……」
1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室である(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)。昼休みであった。
「『ナニカイ』?」
女子生徒は、ちぎったノートのページをホッチキス止めした冊子のようなものの表紙を声に出して読んだ。
「(いや、違う。それは、『ナニカイ』ではなく『ナンカイ』だ)」
と、訂正しようとしたが、何故、自分が訂正しなくてはならないのだ、と思い、黙した。
「『ナニカイ』いうて何なん?」
「(それは、ボクの方が知りたいくらいだ。『何会』って何なんだ?)」
ビエール・トンミー君が黙したままなので、女子生徒は、冊子の表紙をめくろうとした。
「いや、何でもない。何でもないんだ!」
ビエール・トンミー君は、女子生徒の手から冊子『何会』を奪うと、鞄に入れた。
「何なんねえ!ケチじゃねえ!」
怒った女子生徒は、口を尖らせてそう云うと、背を向け、自分の席に戻った。
「(中を見せる訳にはいかない)」
(続く)
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