(夜のセイフク[その43]の続き)
「い、い、いや、なんでもない….」
隣席の女子生徒の質問に、ビエール・トンミー君は、動揺を隠せぬまま答えた。
「ヒーバー云うた?」
「いや…..」
「なんのことねえ?」
「いや…..」
「比婆山のこと云うたん?」
「あ…!....ああ……」
「比婆山行くんね?」
「え?....ああ、親が行こうかと….」
咄嗟に嘘をついた。
「比婆山行くんじゃったら、気ーつけんさいよ」
「え?」
「ヒバゴンよね」
「ヒバゴン?」
「そうよねえ、ヒバゴンよ」
「ヒバゴン?」
「あんたあ、ヒバゴン、知らんのんねえ?」
女子生徒は、明らかに『呆れた』という表情をして、前の席の女子生徒の背中をつついた。
1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室である(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)。昼休みであった。
「ビエ君いうたら、ヒバゴン、知らんのんじゃと」
「ええー!あがいに有名なのにい?」
もう一人の女子生徒も、ビエール・トンミー君に軽蔑の眼差しを向けた。
(続く)
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