2022年2月5日土曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その130]

 


「朝鮮には、昔、『高句麗』という国があったのは知っているか?」


と、『少年』の父親は、『少年』の質問に対してまだ答えず、逆に質問を『少年』に投げかけた。牛田方面に向う『青バス』(広電バス)の中であった。


「うん、確か、『百済』、『新羅』と朝鮮の三国時代を作った国じゃないの?」


と、『少年』は、父親の質問の意図をはかりかねながらも、答えた。広島の老舗デパート『福屋』本店の南側出口(えびす通り玄関)を出た『少年』とその家族が、帰宅の為、えびす通りをバス停に向い、えびす通りと中央通りとの交差点の横断歩道近くまで来た時、父親は、中央通りの向こう側に聳える百貨店『天満屋広島店』を指差しながら、『天満屋』の歴史を語り出した。そして、『天満屋』の創業の時代、『文政』年間に、『シーボルト』が来日した、と説明し、更に、その『シーボルト』が、オランダ人として日本に入国したものの、実はドイツ人の医者であったこと、更には、日本の女性との間に娘をもうけたことを説明したところ、『少年』が、『シーボルト』は日本で日本の女性と結婚したんだね、と確認してきた為、当時(江戸時代)の結婚というものの説明まで始めることとなり、結婚の際に必要となった書類の説明や、それに関連した宗教、宗派のこと等を説明し、更に、国際結婚が認められるようになった歴史や、それに関連して『ナポレオン法典』やその翻訳にあたった人物等についても説明していくについて、話のテーマは、『結婚とは何か?』という根元的なものへと展開し、『通い婚』時代の儀式や、そこから天皇制と一般人民の歴史といった思い掛けない方向へと行ったが、ようやく『シーボルト』と日本の女性との『結婚』に話が戻り、更に、『シーボルト』とその日本の女性との間にできた娘『イネ』が日本初の女医であったことを紹介した。しかし、その『イネ』が医学を学んだのは、父親の『シーボルト』ではなく、『シーボルト』の弟子の『二宮敬作』であり、そうなったのは、『シーボルト』が『イネ』の2歳の時に国外追放となった為であることを説明し、国外追放となったのは、1829年(文政12年)であり、その年はまさに『天満屋』創業の年であったことに触れ、話はようやく『天満屋』の歴史に戻ってきたところ、説明はまた、『天満屋』発祥の地にある寺院『西大寺』の『会陽』というお祭へと派生していっていたが、『少年』は、『天満屋』の創業へと話を戻してきた。しかし、『天満屋』の創業時の業態である『小間物屋』の『コマ』へと、話は再び、派生していっていた。


「おお、よく知っているな。その『高句麗』と『高麗』とは、文字が似ているというか、共通する文字があることからか、よく混同されるんだが、異なる国といえばそうだし、同じ国といえば、それが違うとは必ずしも云い切れないような感じなんだ」

「?」


さすがの聡明な『少年』も、父親の自家撞着的な説明に、声を発することができない。


「ちょっと、分りにくいとは思うし、色々な説があって、なんとも云えないんだが、『高句麗』が『高麗』(コウライ)に改名したとも云われるし、『高麗』(コウライ)は、『高句麗』の別名だった、とか呼び名だったとかとも云われるんだ。更には、『高句麗』が滅んだ後にできた国に『高麗』(コウライ)というものがあり、『高句麗』が改名したというか『高句麗』の後期の名前の『高麗』(コウライ)は、『コマ』と読み、『高句麗』が滅んだ後にできた国の『高麗』は、『コウライ』と読むともされるんだ」

「うわああ……なんだか、とっても複雑だねえ」

「だからなのか、東京の西武池袋線という私鉄の駅に、『高麗』(コウライ)と書いて『コマ』と読む駅があるんだ」




「ええ、日本の駅に???」

「そうだ。その『高麗』(コマ)駅というのは、厳密には東京にあるんではなく、埼玉県なんだが、その駅があるところは、元々は、『高麗』(コマ)郡という名前の土地で、そこがそんな名前になったのは、『高句麗』から来た人たちが集められてできたできた場所だったからなんだ」

「『高句麗』が『高麗』(コウライ)と改名したか、『高麗』(コウライ)が、『高句麗』の別名だったかもしれないし、『高句麗』の後期の名前が、『高麗』(コウライ)で、それを『コマ』と読んだかもしれないからなんだね」

「ああ、そんなところだな。それにな、中国の隋や唐の文書には、『高句麗』の省略形として『高麗』と表記されていたとも聞いたことがあるぞ」

「へえええ。隋や唐の文書にも書かれているの。でも…」


と、『少年』が、まだまだ何か疑問を残している様子を見せた時、


「え!?.....」


バスの中の他の誰にも聞き取れない程度の小さな声が、小さい声ながら叫んだ。どうやら、広島の進学校である広島県立広島皆実高校の出身で、『ハンカチ大学』の商学部に在籍しているようであるその声の主、いや、今や元素記号を音にしたようなものを発する主は、その時、同じ『青バス』(広電バス)に乗り合わせた美少女、前年(1966年)にテレビ・ドラマ化もされた三浦綾子・原作の『氷点』のヒロインの少女『陽子』を演じる『内藤洋子』に似た美少女を『源氏物語』の『若紫』と見立て、『光源氏』のように、『新手枕』の翌朝に、彼女から恨まれたいというサディスティックでもありマゾヒスティックでもあるような感情を抱いたが、それが単なる感情ではなく、彼の肉体にある『変化』をもたらした結果、元素記号を音にしたようなものを、彼が発したことに気付いたのか、その美少女から睨むような視線向けられ、その視線に耐えきれず、自らの視線を股間に落とし、そこに、『ごめん』と詫びなければけいけない『証拠』を確認したのだったが、何かに、いや、誰かの視線に射抜かれるのを感じたのであった。


(続く)




0 件のコメント:

コメントを投稿