2022年2月27日日曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その152]

 


「ふふ…『石川千代松』はな、『きりん』が手に入った、と国に嘘をついたんだよ」


と、『少年』の父親は、含み笑いに更に勿体をたっぷりつけた云い方をした。牛田方面に向う『青バス』(広電バス)の中であった。


「え?それが嘘なの?だって、本当に『きりん』を買うことができることになったんでしょ?」


と、『少年』は、父親相手ではあったが、堂々と異を唱えた。


広島の老舗デパート『福屋』本店の南側出口(えびす通り玄関)を出た『少年』とその家族が、帰宅の為、えびす通りをバス停に向い、えびす通りと中央通りとの交差点の横断歩道近くまで来た時、父親は、中央通りの向こう側に聳える百貨店『天満屋広島店』を指差しながら、『天満屋』の歴史を語り出した。そして、『天満屋』の創業の時代、『文政』年間に、『シーボルト』が来日した、と説明し、更に、その『シーボルト』が、オランダ人として日本に入国したものの、実はドイツ人の医者であったこと、更には、日本の女性との間に娘をもうけたことを説明したところ、『少年』が、『シーボルト』は日本で日本の女性と結婚したんだね、と確認してきた為、当時(江戸時代)の結婚というものの説明まで始めることとなり、結婚の際に必要となった書類の説明や、それに関連した宗教、宗派のこと等を説明し、更に、国際結婚が認められるようになった歴史や、それに関連して『ナポレオン法典』やその翻訳にあたった人物等についても説明していくにつれて、話のテーマは、『結婚とは何か?』という根元的なものへと展開し、『通い婚』時代の儀式や、そこから天皇制と一般人民の歴史といった思い掛けない方向へと行ったが、ようやく『シーボルト』と日本の女性との『結婚』に話が戻り、更に、『シーボルト』とその日本の女性との間にできた娘『イネ』が日本初の女医であったことを紹介した。しかし、その『イネ』が医学を学んだのは、父親の『シーボルト』ではなく、『シーボルト』の弟子の『二宮敬作』であり、そうなったのは、『シーボルト』が『イネ』の2歳の時に国外追放となった為であることを説明し、国外追放となったのは、1829年(文政12年)であり、その年はまさに『天満屋』創業の年であったことに触れ、話はようやく『天満屋』の歴史に戻ってきたところ、説明はまた、『天満屋』発祥の地にある寺院『西大寺』の『会陽』というお祭へと派生していっていたが、『少年』は、『天満屋』の創業へと話を戻してきた。しかし、『天満屋』の創業時の業態である『小間物屋』の『コマ』へと、話は再び、派生し、その『コマ』は、朝鮮の『高麗』のことともされているが、『高麗』をどうして『コマ』と読むのか、『少年』は理解できないまま、『高麗』こと『高句麗』は、果たして朝鮮なのか、はたまた中国なのかという命題に飲まれ、更には、そもそも『国』とは何か?『何々人』とは何か、という小学校を失業したばかりの『少年』には難解すぎる命題を突きつけられてしまったものの、『少年』の父親は、更に、『ツングース』と『出雲』、更に更に『松本清張』の推理小説『砂の器』へと話を派生させていったが、『少年』の問いにより、出雲でも東北のような『ズーズー弁』が使われる歴史的な背景の説明へとワンステップ、話を戻した。しかし、『少年』の父親は、出雲弁に関係して、『伊藤久男』、『古関裕而』という2人の人物の名前と共に、『オロチョン』という『ツングース』系の民族の名前を出し、そこから何故か、『ヤマタノオロチ』を持ち出し、その正体について、『オロチョン族』説があることも紹介したが、『少年』は、話のテーマを、『高麗』をどうして『コマ』と読むのか、に戻し、『少年』の父親は、『高句麗』があった地域が、『狛』(こま)と呼ばれていたことを説明し、またもや話を『狛犬』へと派生させた。しかし、『狛犬』は犬ではなく『獅子』であるとし、『獅子』はライオンではない、とはしたものの、宇部の『中津瀬神社』の『狛犬』が実は、橋に置かれていたライオン像を移設したものであることを『少年』に教え、更には、他にも、ライオン像のある橋があるが、それはヨーロッパを参考としたものであることも説明したが、東京の『日本橋』については、何やら違いがあり、『麒麟』について語り始めていたものの、何故か、日本に初めて『キリン』を持ち込んだ上野動物園の初代園長『石川千代松』が、ついた嘘についての話となっていた。


「『石川千代松』が云った『きりん』は、漢字の『麒麟』だったんだよ」

「え?『麒麟麦酒』の『麒麟』?」

「そうだ」

「そんなバカな!だって、『麒麟」って空想の動物でしょ?」

「そこだよ。あの『伝説の動物』が手に入った、ということに、予算の7倍でも買う価値がある、としたんだよ」

「ええ!それって、おかしいよ。だって、嘘に決まってるじゃない!」

「その通りだな。しかし、伝説の『麒麟』が手に入るとしたが、価格が高過ぎて『石川千代松』は辞任に追い込まれた、という説もあるようなんだ」

「そりゃ、そんなひどい嘘をついたからだよ」

「それがな、多分、実際には、『キリン』購入を正式に決める前に、『キリン』が日本に到着してしまったことで辞任せざるを得なくなったようなんだ。しかも、横浜港に到着した『キリン』を上野まで運ぶ際や動物園に収容した際に、一般公開前なのに、『キリン』の首が長過ぎて、というか背が高過ぎて大衆に知られてしまったようなんだ」




「なるほどねえ。でも、『石川千代松』さんが、『キリン』のことを漢字の『麒麟』だとしたのは、嘘は嘘だよね。それはいけないよね」

「ところがだ…」


と云って、『少年』の父親が、口をへの字に結んだ時、


「アンタあ、やめんちゃいやあ。バスの中でそうようなこと云いさんなや」


と、バスに乗り合わせていた熟年の夫婦の妻の方が、隣に座る夫の肩をポンと叩いた。妻は、自分が嗅いだ臭いニオイが、同じバスに乗る大学生らしい若い男(実は、広島の進学校である広島県立広島皆実高校の出身で、『ハンカチ大学』の商学部に在籍しているらしき青年)の発するものであり、若い頃の夫のように、自分が原因でその若い男もその臭いニオイを発したのでははないかと思ったことに関して、夫が呆れ果てたといった云い方をてきたので、若い頃、夫が自分に迫ったきた時のことを云い出し、夫も若い頃の妻の魅力を思い出したようであったのだ。


(続く)




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