2022年2月25日金曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その150]

 


「『石川千代松』という人だ」


と、『少年』の父親は、突然、『少年』にはなんだか江戸時代の人のように思える人名を持ち出した。牛田方面に向う『青バス』(広電バス)の中であった。


「明治時代の人で、上野動物園の初代園長さんだ。正式には、『園長』ではなく『監督』だったらしいんだが」


と、『少年』の父親は、英語では『giraffe』(ジラフ)である動物が、日本で『キリン』となった理由を説明し始めた。広島の老舗デパート『福屋』本店の南側出口(えびす通り玄関)を出た『少年』とその家族が、帰宅の為、えびす通りをバス停に向い、えびす通りと中央通りとの交差点の横断歩道近くまで来た時、父親は、中央通りの向こう側に聳える百貨店『天満屋広島店』を指差しながら、『天満屋』の歴史を語り出した。そして、『天満屋』の創業の時代、『文政』年間に、『シーボルト』が来日した、と説明し、更に、その『シーボルト』が、オランダ人として日本に入国したものの、実はドイツ人の医者であったこと、更には、日本の女性との間に娘をもうけたことを説明したところ、『少年』が、『シーボルト』は日本で日本の女性と結婚したんだね、と確認してきた為、当時(江戸時代)の結婚というものの説明まで始めることとなり、結婚の際に必要となった書類の説明や、それに関連した宗教、宗派のこと等を説明し、更に、国際結婚が認められるようになった歴史や、それに関連して『ナポレオン法典』やその翻訳にあたった人物等についても説明していくにつれて、話のテーマは、『結婚とは何か?』という根元的なものへと展開し、『通い婚』時代の儀式や、そこから天皇制と一般人民の歴史といった思い掛けない方向へと行ったが、ようやく『シーボルト』と日本の女性との『結婚』に話が戻り、更に、『シーボルト』とその日本の女性との間にできた娘『イネ』が日本初の女医であったことを紹介した。しかし、その『イネ』が医学を学んだのは、父親の『シーボルト』ではなく、『シーボルト』の弟子の『二宮敬作』であり、そうなったのは、『シーボルト』が『イネ』の2歳の時に国外追放となった為であることを説明し、国外追放となったのは、1829年(文政12年)であり、その年はまさに『天満屋』創業の年であったことに触れ、話はようやく『天満屋』の歴史に戻ってきたところ、説明はまた、『天満屋』発祥の地にある寺院『西大寺』の『会陽』というお祭へと派生していっていたが、『少年』は、『天満屋』の創業へと話を戻してきた。しかし、『天満屋』の創業時の業態である『小間物屋』の『コマ』へと、話は再び、派生し、その『コマ』は、朝鮮の『高麗』のことともされているが、『高麗』をどうして『コマ』と読むのか、『少年』は理解できないまま、『高麗』こと『高句麗』は、果たして朝鮮なのか、はたまた中国なのかという命題に飲まれ、更には、そもそも『国』とは何か?『何々人』とは何か、という小学校を失業したばかりの『少年』には難解すぎる命題を突きつけられてしまったものの、『少年』の父親は、更に、『ツングース』と『出雲』、更に更に『松本清張』の推理小説『砂の器』へと話を派生させていったが、『少年』の問いにより、出雲でも東北のような『ズーズー弁』が使われる歴史的な背景の説明へとワンステップ、話を戻した。しかし、『少年』の父親は、出雲弁に関係して、『伊藤久男』、『古関裕而』という2人の人物の名前と共に、『オロチョン』という『ツングース』系の民族の名前を出し、そこから何故か、『ヤマタノオロチ』を持ち出し、その正体について、『オロチョン族』説があることも紹介したが、『少年』は、話のテーマを、『高麗』をどうして『コマ』と読むのか、に戻し、『少年』の父親は、『高句麗』があった地域が、『狛』(こま)と呼ばれていたことを説明し、またもや話を『狛犬』へと派生させた。しかし、『狛犬』は犬ではなく『獅子』であるとし、『獅子』はライオンではない、とはしたものの、宇部の『中津瀬神社』の『狛犬』が実は、橋に置かれていたライオン像を移設したものであることを『少年』に教え、更には、他にも、ライオン像のある橋があるが、それはヨーロッパを参考としたものであることも説明したが、東京の『日本橋』については、何やら違いがあり、『麒麟』について語り始めていたのであった。


「その園長さんが、『キリン』と関係あるんだね」

「そうだ。『石川千代松』さんに、ドイツの動物商人が、『キリン』を買わないかと持ちかけられたんだそうだ。それまで、日本には『キリン』が持ち込まれたことはなかったから、『石川千代松』さんは、その気になったようなんだが、その値段が余りに高過ぎたんだ。予算の7倍くらいだったらしい」

「でも、園長さんは、『キリン』を買ったんでしょ?お金はどうしたの?」

「上野動物園は、今は東京都立の動物園だけど、元々は、農商務省の所管、その後、宮内省の所管と、当時は国の管理のもとにあったから、国がお金を出したんだ」

「へええ、国もよくお金を出したね。『キリン』が珍しかったからなの?」

「確かに、それまで日本に『キリン』が持ち込まれたことはなかったようだからな。象は、室町時代にもう持ち込まれていたようだけど」




「それで、予算の7倍しても、国はお金を出してくれたんだね」

「いや、それがそうではなかった、ということなんだ」

「じゃあ、値段をまけてもらったの?」

「それがなあ、『石川千代松』さんが、嘘をついた、ということなんだがなあ…」


「あんたこそ、何、云うとるん!『お前、可愛いのお』云うたんは誰なん!?」


と、バスに乗り合わせていた熟年の夫婦の妻の方が、自分を詰ってきた夫に言い返した。自分が嗅いだ臭いニオイが、同じバスに乗る大学生らしい若い男(実は、広島の進学校である広島県立広島皆実高校の出身で、『ハンカチ大学』の商学部に在籍しているらしき青年)の発するものであり、若い頃の夫のように、自分が原因でその若い男もその臭いニオイを発したのでははないかと思ったことに関して、夫が呆れ果てたといった云い方をしてきたのだ。


(続く)




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